デ・キリコ展で奇妙なマヌカンたちに出会ったはなし。
漫画「ギャラリーフェイク」は大昔に読んだきりですが、ミステリークロックをはじめ「いつか実物を見てみたい」という欲求を何個も植え付けられました。
デ・キリコの絵画もそのひとつです。
春から東京都美術館で開催している「デ・キリコ展」、観たい観たいと思いつつもなかなか行けず、夏になってようやく観賞できました。
展示構成
自画像・肖像
形而上絵画
イタリア広場
形而上的室内
マヌカン
1920年代の展開
伝統的な絵画への回帰:「秩序への回帰」から「ネオ・バロック」へ
新形而上絵画
デ・キリコと言われて思いつく、暗い空・奇妙なオブジェ・マヌカンが登場するのは「形而上絵画」の章から。
撮影は全面的に禁止。まだデ・キリコの作品はパブリックドメインじゃないし詰んだ……(記事の見栄え的な意味で)。
特設ショップを抜けると撮影スポットがあります。
個人的見どころ
閃いた。写真が撮れないなら公式SNSの紹介ポストを出せばいいじゃない。
改めてまとめると好きな絵画はマヌカン系が多いな(小並感)。
予言者
マヌカンが登場する初期の絵画。一つ目に見えるところが「予言者」っぽい。
マヌカンがやってることはどうやら風景画の下書きなんですが、この「一つ目」
ヘクトルとアンドロマケ
同名の作品は複数展示されており、デ・キリコのお気に入りモチーフだったのかなぁ、と思います。
注目して欲しいのは2つめのポストのマヌカン。
1つめはいかにも無機物の集合体っぽいですね。2つ目はアンドロマケの肢体がすごく肉感的。
展覧会を通して感じたのは、マヌカンは「機械的」とは限らないこと。むしろツルッとした仮面を被ったようなマヌカンが多く、なるほどマヌカンはデ・キリコにとって「演者」なんだな、と思いました。
神秘的な考古学者たち(マヌカンあるいは昼と夜)
じっさいの絵は全体的にもっと色温度が低いです。
これ、マヌカンの絵のなかでも特にSFっぽい雰囲気なんですよ。このままハヤカワの表紙になっても驚きません。
展覧会に出品された作品のなかでいちばん好き。
形而上的なミューズたち
デ・キリコ展のメインビジュアルを務めてるやつです。
ミューズと題されてるだけあって(大きな洞と三角定規に目をつぶれば)手前のマヌカンは整った頭部形状をしています。
彫刻作品群
公式が「見どころ」と言ってるだけあって、機械的なマヌカンも写実的な馬も興味深い。
さいきん絵画を観に行ったら彫刻が面白かった、ってケースが多いなぁ。
緑の雨戸のある家
どうやらドールハウスではないらしい。
私は素直に「かわいい」と思ったクチです。色合いもデ・キリコの絵画にしてはパステル調ですし。
岩場の風景の中の静物
で、伝統的……?
タッチは確かに「ふつうの絵画」って感じなんですが、背景が岩山とか斬新すぎる。
この絵に限らず、伝統的な絵画に回帰したはずの作品からどうしても「奇妙さ」を嗅ぎとってしまうのです。
オデュッセウスの帰還
新形而上絵画の作品。室内の海でボートを漕ぐオデュッセウスが描かれています。
オデュッセウスと言えばトロイアから故郷イタケーへの長い長い旅路をうたった叙事詩「オデュッセイア」で有名ですが、大冒険もしょせん「自分の人生」という範囲でしかないのだろうか、と感じました。
特設ショップ
今回は気に入った絵のポストカード、コラボ缶バッジ、輸入品のきれいな紙を買いました。
オリジナルグッズの目玉はやっぱり人気イラストレーター・ヒグチユウコさんのコラボ缶バッジかな? 「不安を与えるミューズたち」をモチーフにしたイラスト台紙が本体かもしれない。
陳列はされてなくて、レジに半券を見せる必要があります(裏に購入済チェックされる)。
フォトスポット
おわりに
いちばんの発見は「マヌカンは機械的・無機的な描かれ方で統一されているわけではない」ことでしょうか。
ここでは取り上げませんでしたが、内蔵をさらけ出したかのように腹部に様々なモチーフを抱えたマヌカン、ルノアールのようなタッチで描かれたマヌカンなど実にバリエーション豊かです。
東京展は木曜に終わりますが、来月からは神戸展が始まります。
暗い空と不思議なオブジェ、マヌカンが織りなすデ・キリコの世界にご興味がありましたらぜひ足を運んでみてください。