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026 目指せリノベーション /こんな学校あったらいいのに

私立大学の観光学部が、千葉県鴨川市から撤退します。

撤退あとは、どうなるんだろうか。

そこに、地域活性化に貢献する、こんな学校ができたらいいのにという妄想です。

引き続き、地域活性化を学ぶためのテーマを考えていきます。


とある街のこれまで

そこは観光地でも名の知られた海辺の街。特急電車の終着駅でもある。

駅前の旧道沿いには、観光客向けのお土産屋や食堂がならび、さらには地元の人たちが衣食住に必要なものを買う商店が並んでいた。

駅から周辺部へはバスが走っており、地元民と観光客の双方が利用することで、それなりに混んでいた。

1980年代までは、まだ鉄道を利用する観光客も多く、地元民と観光客のどちらも駅がハブとなり、駅前の商店街も賑わっていた。

バブル時代の末期に、バイパス道路のある駅の反対側で再開発が行われ、大型ショッピングセンターができた。

地上6階建てで上層階は駐車場になっている、どこでも見かけるショッピングセンターであった。

行政サービス機能や娯楽機能も備えていたため、駅を利用する客も含めて、1990年代にはそれなりにショッピングセンターは賑わいを見せていた。

いっぽうで、地元民も観光客も、自家用車での移動が中心となっており、旧道沿いの商店街は人影もまばらとなり、バスの利用客も減っていった。

2000年代に入り、バイパス道路沿いにロードサイド型の大型スーパーが進出し、そのまわりに大型ドラッグストアやファーストフード店が立ち並んだ。

どこでも見かけるロードサイド型の店舗展開であった。

そちらに利用客を取られる形で、駅前の大型ショッピングセンターはどんどんと寂れていってしまった。

この50年の街の変遷をたどってみました。

一つの店に行けば、なんでも揃っているので、人々の利便性は非常に高くなったのだろうと思います。

ただ、どこにでもある駅前の大型ショッピングセンターやロードサイド型店舗を見ていると、なんの個性もない街になってしまったなと思うのは確かです。

もうしばらくはロードサイドの店舗も賑わうかもしれません。

しかし高齢者比率が増えている中で、高齢者が自分で車を運転できなくなったときに、いったいどうなるのでしょうか。

子どもが地元に残って同居してくれていればよいですが。

高齢者世帯が40%といったレベルとなると、半数近くの高齢者は自分で自分の身のまわりのことをやるほかないのです。

もちろん、ヘルパーさんなどの助けは入るでしょうが、今後は高齢者比率が高まる中で、どこまで手厚くカバーできるかは心許ないところです。

その時に、街はどうなっているのでしょうか。

観光地を訪れる人々も、自家用車で観光地に直接乗りつけ、そのまま帰っていってしまいます。

お土産を買うとしても、観光地で用足りてしまえば、わざわざ街に立ち寄ることもありません。

日本全体の人口が減っていく中では、観光地を訪れる人の絶対数が徐々に減っていくことになります。

観光地の他に、訪れる人たちを引き留める何かがなければ、地元に落とされるお金も減っていくこととなります。

その時に、街はどうなっているのでしょうか。

昔の商店街は、大型ショッピングセンターができようができなかろうが、いずれ衰退していたのかもしれません。

こうした街の変遷は、自家用車の利用が中心になっている現在、人々の利便性を考えれば必然だったのかもしれません。

しかし、あと10年、20年先を見据えた時、どのような街であってほしいのかを、もう一度、考えるべき時が来ているように思います。


子や孫につないでいく街は、どのような姿であって欲しいのか。

そのために3つの視点があると考えています。


文化や風土の継承

建物や街並みは、その地の文化や風土を繋いできたもの。それをいかに継承するか。

1999年にイタリアでスタートした「スローシティ」の活動。

スローフード・スローライフ運動から発展したもので、質の高い暮らし、ゆったりした時間を過ごす人口5万人以下の街のネットワークです。

それは均質化へと向かうグローバル社会に対して、多様化を持って小さな町が対抗していく姿なのです。

久繁哲之介氏の著書『日本版スローシティ』には、「地域固有の文化・風土を活かす都市」を目指すスローシティの5つの要件が挙げられています。

①ヒューマニズム:人間中心の公共空間を、ゆっくり歩ける
②スローフード:地域固有の食を、ゆっくり味わえる
③関与:地域固有の文化・物語に、市民が関与(参加)できる
④交流:ゆっくり話せる・観れる・癒される
⑤持続性:市民のライフスタイル・意向を把握する

街に引き寄せられる旅行者を受け入れるにも、小さな街では設備の完備した宿泊施設を望むことは難しい。

そうであれば、民泊やゲストハウスのような形で、簡易に対応できるようにする必要があります。

食事も、それぞれの民家やゲストハウスで準備するのは難しいので、街のレストランや食堂を使うようにして、食泊分離で対応すれば良いでしょう。

金太郎あめのような、どこかで見たことのある風景ではなく、その地の風土や文化を活かした街であれば、いろいろな人たちが集まるようになります。

変化と進化への適応

人々の生活や生業、人々の生活を支えるテクノロジーは変化し、さらには進化する。それをいかに適応させるか。

三世代あるいは四世代の大家族から、親子数人で暮らす核家族へと、昭和の時代に大きく変化しました。

若者が寮やアパートで独り暮らしをするスタイルだけでなく、仲間が数人集まってシェアハウスで暮らすスタイルも見られるようになりました。

ネット通販が普及して、街で買い物をするのは生鮮食品だけというケースも多くなっています。さらに中食と呼ばれる家庭の外で調理されたものを購入して、自宅で食事をする頻度も増えています。

以前のように一家に一台、自家用車を保有するという考えが、特に都会では希薄になっており、車のシェアサービスも増えています。いっぽうで、地方ではまだまだ車での移動が必須であり、一家に三台を保有するなんていう家庭もそこかしこにあります。しかし、いずれ車の自動運転があたり前になれば、ほとんどの人が車は所有するのではなく、利用するという発想に変わることでしょう。

建築材料も進化しています。軽くて丈夫な素材。断熱性や防火性に優れた素材。さらには機能性に優れた素材というだけでなく、いずれ建物を解体する際に廃棄物を出さずにリサイクルすることを考慮した素材など、建築材料も進化しています。

そうした変化や進化を取り込み、人々の新たな生活、つまり新たなアクティビティに適応する建物や街へと変えていく必要があります。


「ストックは新たなアクティビティの受け皿」(出典:リノベーションの教科書)であるべきなのです。

新たなトレンドに対する発想

人口減少はこれまでの流れとは180°反対のトレンドとなる。それをいかに発想するか。

拡大する発想から、たたむという発想へ。
新たに構築する発想から、既にあるものを利用する発想へ。
マスを生み出す発想から、多様性に対応する発想へ。
詰め込むために余白を削る発想から、豊かさを享受するために余白をいかす発想へ。

これまでは新しいものを作ることが良いことだという、いわば新築至上主義のような時代だったと思います。

しかしこれからは、今あるものを活かして、いかにして充実した生活に結びつけるかという発想に変わっていく必要があります。

新築や増築が必要だった時代から、減築により生まれたスペースで人が集まることができるようにしたり、外の光を家の中に届きやすくして生き生きとした室内に変えていくなど、生活の潤いを生み出す時代に変わっているのです。

いまあるものを活かすには、現在の建物や街の制約条件を踏まえて、個々のケースで最適な設計をすることが求められます。そこには、その地の文化や風土を継承するということも含まれます。

言うなれば、デザインの地消地産が必要なのです。


目指せリノベーション

大学には、建築学科や都市計画学科といった学科が古くから存在しています。

日本学術会議で『大学教育の分野別質保証』がまとめられていることを、以前紹介しました。

その土木工学・建築学分野から、少し引用します。

欧米諸国をはじめとする国々においては、土木工学並びに建築工学の分野、すなわち構造力学や環境工学、施工技術等に関わる建設工学と、建築の意匠や歴史、アーバンデザイン等の領域を峻別し、前者を「工学」、後者を「デザイン、もしくは建築デザイン」と呼んで、互いに独立した学部で教授されることが多い。他方、我が国においては明治以降の近代教育において、一貫してその両者を一体的に教授してきた経緯がある。先進国中でも有数の地震国であり、台風等の風水害も頻発する我が国においては、それらに対する防災の観点からも、工学的側面とデザイン的側面は不可分の関係にあり、その統合の上にこそ土木工学・建築学が成り立つと解釈されてきた。

出典:http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-22-h140319.pdf

工学的側面とデザイン的側面を一体的に学ぶスタイルは、新しい建物を作ることだけでなく、今あるものを活かすという面で非常に大きな強みになるような気がします。

特にこれからは、人々のアクティビティに着目してデザインし、また耐震性など工学的な視点でも検証した上で改築し、再利用していくという、非常に高度なスキルを求められるのでしょう。

ある意味で、「リノベーション学科」というものが存在してもおかしくないのかもしれません。

新しい建物を立てることだけではなく、人々のアクティビティにも着目して、今あるものを活かすという発想で取り組むことができるエンジニアが求められるのだと思います。

そうした観点から、大阪市立大学の生活科学部 居住環境学科は興味深く見ています。

『住居学・建築学分野の基礎的で広範な知識、能力を身につけ、住宅・建築産業のなかで、生活者の視点をもって活躍する技術者の育成を目標』とする学科で、

A. 人間生活と社会、文化、環境と健康に関する総合的理解と、バランスのとれた判断力
B. 住宅・環境・建築技術者に必要な自然科学や情報技術の知識・理解力
C. 居住生活・居住空間に関する幅広くて深い理解と高度な計画能力
D. 住宅、建築、地域環境の技術、及び関連分野の技術に関する知識と応用能力
E. 快適で美的な空間を設計しデザインするための創造的能力と、それらを伝達するための製図・模型作成技能
F. 居住空間・環境における課題を発見し、与条件のもとで企画・立案・実行を行う実践的能力
G. 共同作業や実務に役立つ論理的プレゼンテーション能力と、他者と協調して行動し、リーダーシップを取ることができるコミュニケーション能力 

をディプロマポリシーで掲げています。

シラバスには、色彩学などデザイン的な授業も含まれていて、学際的な流れも感じます。

『居住空間・環境における課題を発見し、与条件のもとで企画・立案・実行を行う実践的能力』というのは、まさに建物や街のリノベーションに必須の能力だと思います。

もちろん、大阪市立大学の生活科学部 居住環境学科で必要な単位を取得すれば、一級建築士の受験資格も得られます。

こうした学科が、日本全国の各地域で、地域の課題に向き合うエンジニアを育ててくれれば、新たな日本の姿に向かって進み始めるように思います。




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あおい しんご
最後まで読んでくださり、ありがとうございます。