祖父母の思い出を、ギャラリー島田さんへ
ワゴン車の後部座席に、大きな作品を2点、積んでいる。車の持ち主は、神戸の老舗の額縁屋の雅堂さん。私は助手席に同乗させていただき、向かうは、北野にあるギャラリー島田さんへ。こちらも神戸で歴史のある現代美術を扱うギャラリーだ。
運んでいるのは、先日96歳で亡くなった祖母による刺繍の作品。
この作品には、私個人的に想いがあった。
祖母のアトリエがなくなった今、遺した数々の作品をどうするかが課題となっていた。蛾の刺繍の作品は、個人宅で所有するにはちょっと大きい。気軽に「私がもらう!」とは言えなかった。
すぐに頭に浮かんだのが、ギャラリー島田さんだった。社長の島田誠さんとは、2年くらい前に北野で挨拶をする機会があった。北野にある神戸の農産物を扱うFARMSTANDでマネージャーをしていた頃、センスの良さが隠しきれない紳士がランチを食べにいらしていた。
なんとなく気になっていると、FAARMSTANDのオーナーの小泉亜由美さんが、ギャラリー島田の方だと教えてくださった。関係性はよく知らなかったが、祖父母と交流があったのは確かだった。祖父母の名前を伝えると、島田さんの方から、祖父母には大変お世話になったんだということを感慨深く話してくださった。
その時の出来事を唯一のお守りとして、「1点だけ作品を預かって欲しい」というお願いを、無鉄砲にやってのけた。
やりとりの中で、もう1点、ピエロの作品を増やした。(祖母はよくピエロをモチーフに描いていた。理由は聞いたかもしれないけれど覚えていない)これは、祖父が執筆した「道化断章」というタイトルの書籍の表紙となっている。この本の出版には島田さんが関わってくださっているようだった。ギャラリー島田の前身である元町商店街で愛されていた本屋、海文堂から出版されている。
大きな作品なので、島田さんとお付き合いのある雅堂さん(こちらも偶然島田さん)に運搬をお願いしてみてはどうかというアドバイスもいただいた。祖母は雅堂さんで額縁を購入していたそうで、雅堂さんも、祖母の家の玄関にあるギャラリースペース、アトリエのこと、祖母が社交的でいつも美しくしていたことなどを知ってくれていて、そういったエピソードを聞けたのも本当に嬉しかった。雅堂さん曰く、ギャラリー島田さんは今、所有をなるべく減らすようにしているようだから、お引き受けいただくのは、祖父母との思い出もあってのことでしょうねと。このプチプロジェクト完全に個人的な衝動だけど、受け止めてくださったことが有り難く堪らない。
島田誠さんは、「道化断章と合わせてか、何か人の目に触れられる機会を作れないか考えてみますね」と優しくおっしゃってくださった。
社交的で人前に出ることの多かった祖父母は、きっと、こういう形で作品が託されたことを、喜んでくれている。そう思う。