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相手の"わからない"という感覚が、わからない / 武田友紀『「繊細さん」の本』
何年か前に「繊細さん」の本が流行っていて読んだ。
私はHSP(Highly Sensitive Person=とても敏感な人、繊細さん)ではないのだが、周りにHSP気質の友達が何人かいて、彼らの悩みや性質について知りたくなったのだ。
サンプル数が少ないものの、私が感じていた彼らの共通点はこんな感じ。
・人の顔色や空気を読みすぎる
・ずっと生きづらさを感じてきた
・対面や電話より、じっくり言葉を選べる文字のほうが質問や相談をしやすそう
読んでみて、まず最初に抱いた感想はこれ。
「こんなに敏感なら、そりゃ生きづらいわ!!!」
「人の顔色を気にしすぎ」とか「もっとポジティブに考えたらいいのに」とかそういうこと以前に、もともと備わっているスペック的に、自然に入ってくる刺激や情報量が多すぎて脳みそや身体が疲れちゃうんだな、ということが分かった。
例えば、私が網戸の中で生きているとしたら、彼らはサッカーゴールくらい大きな網目の中で生きている感じ。
私は風を入れつつも蚊が入ってこなくて快適だけれど、彼らは無防備でいると蚊どころかピンポン球くらいのモノまでガンガン入ってきてしまう。快適さが全然違うので、そりゃあ疲れて当然だと思った。
私、寝る時に冷蔵庫の機械音とか全く気になったことないや。義実家でも、初めて行くホテル旅館でもぐっすり眠れる。
この本の中に出てきた「繊細さん診断テスト」をやってみた。23問中、12個以上に「はい」と答えると「おそらくHSP」という基準らしい。
私は「はい」が8個だった。HSPと呼べるほど繊細ではないものの、少しだけ繊細さも持ち合わせているという程度だろうか。(逆に0個の人はどんな人なのか気になる笑、網戸どころか完全防音室かしら)
読んでいて特に驚いたのはこのへん。
カルチャーショックならぬ、センシティブショック!
私には全くない感覚だったので驚いた。
私自身、道を歩いていて、すれ違った人の表情や洋服の色、カップルのどちらかが右を歩いていたかまでいつの間にか覚えていて、そんな自分に驚いたことがあります。たまたますれ違った人についてそんなに詳しく覚える必要はないのに、見るだけで自然とインプットされてしまうのです。
見えてしまうと「さっきの人は急いでいたな。イヤホンがカバンからはみ出していた。イヤホンといえば、さっきすれ違った人も、今、前を歩いているあの人も、イヤホンのコードは白。やっぱり純正品は白が多いんだな……」と連想ゲームのように情報処理が始まってしまい、頭が休まらずに疲れやすくなってしまいます。
飛鳥新社、2018(p.66)
見るだけで自然とインプット!?
観察力・記憶力が良すぎんか?
私、すれ違った人の表情なんて全く見てないや。
(洋服は「素敵!」と思ったら目に入ってくる)
というかあえて見ないようにしているかも。
だから知り合いとすれ違っても話しかけてもらうまで全く気づけない。
百歩譲って他人のイヤホンがはみ出していたのに気づいても、そこからさらに連想したことはないや。すぐ忘れて他のこと考えてる。
昔、接客の仕事のトレーニング中、指導役の先輩に「今のお客様メガネかけてた?」と聞かれた。
私はマニュアル通りにやるのに必死だったので、メガネどころか顔もあまり思い出せず「すみません覚えてません。そこまで見てませんでした」と言った。(当然服装も意識して見ないと覚えられない)
そしたら「お客様をもっとしっかり見てください!」と怒られた。
メガネなんて意識しないと気づかないよー。
自分、接客業向いてないな、と思った。
今思えば、その先輩はHSP気質だったような気がする。
細かいことにもよく気がつく観察力があって、几帳面で、仕事が早くて優秀だった。でも、いろんなことに過敏に反応しすぎだったような気もするし、体力はあまりなさそうだった。
先輩から見たら、私はどれくらい鈍感に見えていたのだろう。私は、先輩のことをちゃんと知ろうとする努力をしただろうか。もっと色々話してみればよかったな。
今、「非・繊細さんとの違いを知る」と書きました。
サラッと書きましたが、実は、「非・繊細さんと自分は感じ方が違うんだ」ということを想像したこともない方がほとんどなのです。
そう、実は、繊細さんにとって最大の罠は「相手の"わからない"という感覚が、わからない」ことなのです。
(中略)
自分が当たり前に持つ感覚が、相手には「ない」のではないか?
繊細さんにはぜひこの疑問を持ってほしいのです。それだけで、他者の見え方が大きく変わってきます。
私は非・繊細さん側だけど、同じ。
私も、繊細さんたちの感覚がわからない。
しかも、繊細さんたちは、その場ではなかなか教えてくれない。別のタイミングで教えてくれたらまだ良い方で、心の中にしまって我慢してしまうことの方が多いのではないかと思う。
教えてくれたら「そうだったのね!じゃあこうする?」って一緒に考えられるのに。
以前、職場で人の顔色や空気を読みすぎる感じの人がいたので「もしかしてHSP、繊細さんですか?」と聞いたことがある。
そしたら「そうなんです。そんな風に聞いてくれた人初めてです!嬉しい!」と言って喜んでくれた。
HSPであることは、自分からはなかなか言えないらしい。一人で悩んで、「気にしすぎだよなぁ」と自分を責めて…また悩んで…ぐるぐるぐるぐる。
いや、繊細すぎるだろ〜〜
そんな悩むくらいなら勇気を出して言ってよ!
あ、非・繊細な私にできることはこれかも?
「私は繊細さんではないので細かいことは全然気にならないです。私には余計な気を遣わなくて大丈夫ですよ。私にできることがあったら気軽に言ってくださいね〜!」と伝えておくこと。
「HSP仲間ではないけど、この人になら言っても大丈夫」と思っておいてもらうこと。悩んだ時の相談先に登録しておいてもらうこと。
私は、鈍感な人も繊細な人も、どちらも好きだ。
性格さえ良ければ。
性格の良し悪しは鈍感さや繊細さとは全く関係ないと思う。繊細な人がみんな優しくて、鈍感な人がみんなキツイというわけではないはずだ。どんな気質だろうと、良い奴は良い奴だし、嫌な奴は嫌な奴だ。
それに、自分が分からないような感覚を持つ人が教えてくれる視点は新鮮でとても面白いし「そんな感じ方もあるのか!」と勉強になる。なかなか知れない他人の頭や心の中を覗くのはとても楽しい。
だから、もっと知りたいなと思うし、ぜひたくさん発信してほしいなと思う。(noteは繊細さんが特に多い気がする)
非・繊細さんではあるものの、私にだって繊細な部分はたくさんある。
他人の機嫌が悪いと嫌な気持ちになるし、些細なことで落ち込むし、人の言葉に傷つくことも多い。だけど、それはきっとみんな同じ。
繊細だから、じゃなくて、人間だから。
人間だから、みんな同じ。
だから、違いがあっても、たとえ分かり合えなくても、勇気と優しさで、お互いにもっと歩み寄れたらいいなと思う。
言葉は、そのためにあるんだと思う。