伊丹映画はメイキング&特報にも注目せよ
かつて、テレビドキュメンタリーに企画から参加していた伊丹十三にとって、「メイキング」とは、人気俳優のオフショットでもオマケでもなく、映画本編に拮抗する、いや映画以上の面白さが無ければならないものだった。
伊丹映画には、『タンポポ』から『大病人』まで、映画本編に劣らない質の高いメイキングが作られている。『伊丹十三の「タンポポ」撮影日記』『マルサの女をマルサする』『マルサの女2をマルサする』『[あげまん]可愛い女の演出術』『ミンボーなんて怖くない』『大病人の大現場』がそれで、特に『タンポポ』と『マルサの女』シリーズのメイキングは、本編以上に面白いと言っても過言ではない。
『マルサの女』シリーズのメイキングは、当時ピンク映画でデビューして間もない周防正行が監督しており、伊丹映画を経験した影響は、その後の周防作品を観れば明らか。
以前、『伊丹十三の「タンポポ」撮影日記』の構成・演出を担当したテレビマンユニオンの浦谷年良氏に取材する機会があったので、記事の一部を抜粋して引用しておく。
メイキングとともに、伊丹映画のもうひとつの愉しみが、予告編よりも前の時点で、劇場で流れる「特報」。一般的な映画は、まだ撮影前か、撮影中ということもあって、特報はスチールのみ、文字のみで構成されたものが多かった時代だが、伊丹は、何も見せるものがないという不自由さに自由を発見したようだ。
伊丹が行ったのは、自ら監督・主演した特報をつくり、自作をアピールするというもの。
『ミンボーの女』の特報では、背中一面の刺青で登場し、『大病人』ではヒッチコックのモノマネ声で怖がらせる特報やら、管だらけの末期がん患者に扮した伊丹が観客に自分の死生観を語りかけ、その頭上を天使が舞う遊び心あふれた特報を作り、〈遊び場〉を存分に活用してみせた。
遺作となった『マルタイの女』では、運転中の自らが火だるまになるアクションに挑んだが、これは本篇のクライマックスと全く同じく展開なので、リハーサル的な意味合いがあったのかもしれないが、『タンポポ』のメイキングと同じく、面白すぎる特報を公開前に見せることになってしまった。
もしかすると、伊丹はまたも〈興行成績に悪影響があった〉と苦笑していたかもしれない。
初出『映画秘宝 2012年1月号』に加筆修正
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映画監督 伊丹十三・考
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