The noon moon
あなたには、特別な客人がいますか?
若しくは、
真昼の空を見上げた事はありますか?
もしあるとするならば
あなたは本当は、そこへ
何を見ようとしたのでしょう?
(勿論、月がそこにあると
知っていたのかもしれませんね。
真昼と言っても、夜に
似ている時もありますし。)
何か素敵なものを、持ち帰りましたか?
もしそうであったならば、
あなたは時間と
仲良く暮らしているのですね。
(そんな事は無い、とお思いですか?
少なくともあなたは、
あなたと仲が良いのですよ。)
真昼の月と出会えた日には、
私の小さな宮殿の、普段は使わない
小さな扉が開くのです。
生きている事は、不可思議な奇跡で
際限のない慈愛に満ちながらも
悲劇がついて回る物ですね。
(彼らを憎まず、恐れずにいられたなら
時間はもっと雄大である事でしょう。)
そうしているうちに、時に簡単に
複雑で脆い私は、私を
忘れ去ってしまうのです。
(時に私は、私と喧嘩を
してしまうこともあります。)
そんな時のために、私は
私のために小さくとも確かな部屋を
拵えてあるのです。
その扉が1度開けば、
私はまず、呼吸が浅いことに
すぐに気がつく事でしょう。
(これは本当にいけませんよ、
すっかり参ってしまいますからね。)
呼吸を整えてみましょう。
深呼吸を3度してみて下さい。
心得といたしましては、
3秒ほど空気を吸い込み
5秒ほどでゆったり手放す。
いかがですか?
どうか、滑らかであってくださいね。
幼い頃、白く浮かぶ真昼の月を
天使の横顔だと信じていました。
(目があまり良くなかったものですから、
空を横切る天使に見えていたのです。)
今もなお私は、真昼の月を
時折、天使に見間違えてしまうのです。
何故なら、真実は時に
無価値であるからです。
(少なくとも私の世界には通用しません。)
私の手にする知識や真実は
私に道を与えてくれる
素晴らしい物に変わりはありません。
しかしそれらが私の
翼を捥ぐ事は決して起こり得ないのです。
真昼の月は
天使によく似た横顔で
私の城までやって来ます。
生まれたての野原と
特別な午後の香りを携えて
控えめな歩幅でやって来ます。
私は山積みになった、
狭苦しい忙しさを
すっかり忘れ、招き入れる
準備を始めるのです。
特別な客人ですので、
特別に拵えた部屋へ通しましょう。
(私を悩ませる一切は
この時、どこかへ跡形もなく
去ってゆきます。)
私は客人と、軽快に淹れた
完璧な昼下がりを、最後の一滴まで
すっかり飲み干してしまうと
どうか去らないでほしい、と
心底祈りながら、別れの挨拶をします。
最後にこの特別な客人は
招かれたお礼にと
どこかで失くしてしまったはずの
私を置いていってくれるのです。
私は真昼の月を、最後の呼吸まで
大事に眺め続ける事でしょう。
あなたの大切な客人についても
いつかお聞かせ願いたいです。
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