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しろばんば

夕方、ちゃん坊と自転車に乗って歯医者さんへと向かう途中、赤信号で停まっていた時。ちゃん坊が、「しろばんば」を見つけた。

雪虫とも呼ばれる、白くて、一見、ホコリのような虫。

目の前を飛んでいて、数秒だけど、わりと、しっかり見えた。体部分は、なんだか青白かった。羽がブブブーッて動いてて。1匹だけ。

あまり見れないから、見ると、嬉しくなる。

井上靖の『しろばんば』を、私は小6の頃、初めて読んだ。別段それを読みたくて選んだのではなく、当時、受験に必要だということで読まされたのだ(入試でよく出題されていたのかもしれない)。そしてそれは全然好きになれない話で、そもそも前提となる、主人公のお家の家族の形態自体も理解できなかったり。おぬい婆さんもなんか気持ち悪いという印象で。そして当然だけど感情移入先は主人公の洪作で。お話に出てくる駄菓子というのは、自分の知っている駄菓子とは違うようだけど、なんだか茶色っぽそうだなとか、そんなことばかりを想像したり。もちろん、しろばんばという生き物も謎のまま。

それで、印象も悪く、読みたくもないのに読まされるのもイライラして、反抗期真っ盛りの当時、背をボキッと折って、作り付けベッドの下の収納にポイッと投げ入れたような記憶がある。
読書自体は好きだったのに、この本にはなんていうか、すごく、嫌悪感を持ったというか。

ということがあったのだけど、どこかで頭の中にあった『しろばんば』を、コロナ禍の時に、なぜだか急に読み返したくなり、新たに文庫本で続編も含め購入し、読んでみた。すると、なんか、すごく面白くて、好きになったのだった。

感情移入するのは、おぬい婆さんで。「洪ちゃ、洪ちゃ」と洪作を溺愛するのも、なんか、全然、気持ちが分かるというか、自分と重なるというか。。

というか、これ、高学年だとしても、小学生が読むには難しくないか、と改めて思った。主人公が少年っていうだけで子どもが読むお話とするにはちょっと乱暴な気も。。
おぬい婆さんが妾であったというのが、このお話の一つのキーワードというか、洪作の育つ特別な環境を作る原因になったことなのだけども、妾というのが、それを持つのが例えば「王様」とか「お殿様」ならば理解ができたとしても、「ひいおじいさん」というのは子どもにはすんなりとは受け入れにくいというか。。


『しろばんば』『夏草冬濤』『北の海』と三部作を読了し、伊豆に行きたくなって、コロナの落ち着いた頃、「サフィール踊り子」に乗りたいというちゃん坊とも利害が一致し、物語の舞台に行ったのだった。

そこで『しろばんば』や井上靖について、ちゃん坊が何か学んだかは分からないが、「しろばんば」という虫については理解し、そしてそれが、伊豆にだけ生息しているわけでもないとも知り、こうして、家の周りでその虫を見かけると、素早く教えてくれるようになった。

本は読まず、でも、珍しい虫を教えてくれるちゃん坊は、軽やかに小学生生活を送っているように見え、かつての同い年だった私には眩しい。



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