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大学4年生

 私は怠惰でルーズな人間です。なんとか採用試験に向けて奮起していた春休みが明け、ついに大学4年生になりましたが、未だすべき事に中々取りかかれず、少なくなった授業にも遅刻ギリギリで滑りこむ生活をしています。

 4月に入り約2週間、再び試験勉強から逃避し、今度は体力作りとダイエットという大義名分のある、リングフィットアドベンチャーに時間と体力の全てを投じています。リングフィットアドベンチャーは、目に見える変化はすぐには出ないものの、日々運動するごとに自分の筋力の増加を感じられるのが良い。一方で、その疲れからか寝てしまうことが多く、夜眠れない日が続いています。

 さすがに4年生ということで、卒論にも真面目に向き合う必要が出てきました。私は〝居場所〟〝人との繋がりや関わり〟といったものに関心があるのですが、どうにも適切な構想が浮かばずいまいち定まっていません。

 今月末にある構想発表会に向けた資料作りも、考えの纏まらなさからやる気が起きずにいます(そして文字通り手を付けないまま、締切が迫ってやっと向き合うのが常になっている)。

 そして今日、その構想の締切を一先ず乗り切り、解放感のまま放課後を過ごしました。気分もいいし、時間はたっぷりある。こういう時の過ごし方は大抵決まっていて、近くの献血ルームに足を運びます。予約の時間まで一時間、普段通わない図書館で目についた本がありました。

 浅倉秋成さんの『六人の嘘つきな大学生』です。

 以前から本の名前と、どうも就活の話らしいということは知っていたのですが、読んだのは初めて。大学4年生になった今の私にピッタリだと思い手に取りましたが、いやー、めちゃくちゃ面白い。そしてとても心揺さぶられる小説ですね。

 ストーリーは後日談のようなものが挟まれながら進むのですが、何も分からないまま「事件」「犯人」について語られるその後日談と、内定を巡って奮闘する六人の就活生の物語の二軸進行で、就活中に起きたある事件の真相への好奇心を大いに掻き立てられます。採血中もその休憩時間も、そして帰宅後は勿論ページをめくる手は止まることなく、あっという間に読み終わってしまいました。

 そうしたミステリー的な要素の面白さだけでなく、物語を通して人間の様々な顔とその評価といった単純で複雑な人間らしさが多彩に描かれています。読み進めながら、一側面だけを見て印象をコロコロ変えてしまった私のような読者に対する皮肉のようでもあり、めちゃくちゃ面白い。最後の主人公のメッセージには心を打たれましたし、その告白を読み進めるうちに自然と涙が溢れました。そして、自分の思いに真っ直ぐな登場人物たちの心情や行動に感化され、私も自分の進路に向かって精一杯向き合おうと思い直すきっかけになりました。

 今日は献血した都合で汗水垂らして運動することは叶いませんが、代わりに涙を落とすほど心を揺さぶられるいい本を読むことができ、充実感で満ち溢れています。まだ時間はある。私も綺麗な月を見られるよう、このクレーターだらけの裏側に光を当ててみようと思います。