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鳥さんの瞼『死のやわらかい』

鳥さんの瞼さんの『死のやわらかい』を拝読しました。
寄り添ってくれるような、分かってくれるような、あなたの味方でいたいと思ってくれているような歌集だと思いました。
印象に残った歌を引きます。

愛情の加減ができずわたくしの虫歯ひとつに泣いてくれる祖母

「棺」

なんて自分勝手でバランスの悪い愛情だろうと思いました。
きっと主体が本当に悲しんでいる時には、気づいてくれないのだろうとも思いました。
でも、主体が愛されていることは確かなのです。
とても苦しい一首だと思いました。

傷ついた時に自分が悪いって思わなくてもいいのにね 牡蠣

「貝殻」

この「傷ついた時」は、人とかかわった時のことではないかな、と読みました。
わかるなぁと思いました。
誰も悪くない時に、ついつい原因を探してしまって、「強いて言えば自分が悪い」なんて結論になってしまって、余計に落ち込んでしまったりします。
傷ついただけで十分痛いのだから、回復に努めてもよいですよね。

生きているだけでえらいの生きている定義がそもそも違う気がする

「し」

「生きているだけでえらい」はよく聞く言葉です。
この歌で言われている通り、定義は実はひとそれぞれですよね。
一人暮らしが成立していれば「えらい」だったり、毎日掃除していれば、毎食ご飯を食べていれば、睡眠をしっかりとっていれば…などなど、「生きている」を分解すると話題が尽きません。
主体は、「生きている」のハードルを低めに設定している方なのかなと読みました。
人と違っていてもいいはずなんですが、会話が噛み合わないと少し寂しい。
他人とのずれを絶妙に描いているなぁと思いました。

お母さん大好き ひとりで母になる前のあなたを助けたかった

「提供」

切実で好きな一首です。
主体がいることで、主体が産まれることで、「お母さん」は苦労もしたでしょう。
もちろん、幸せだと感じる瞬間はたくさんあったはずです。
でも、主体から見ると、お母さんは助けたくなる存在なのです。
自分の存在を無かったことにしてもいいから、あなたを助けたいのだと、言っているのではないかと思いました。
決して声高ではなく、でもとてもとても大きな愛情を、「お母さん」に向けているのが、伝わってくる一首だと思いました。

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