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小関茂『宇宙時刻』

小関茂さんの『宇宙時刻』を拝読しました。
口語自由律の短歌は初めて読んだ気がします。
一首一首というよりも、一連の流れが詩のように描かれていきます。
印象に残った歌を引きます。

地平に接しているところからねばねばと溶けて流れる空

「早春の自然」

空に「ねばねば」という擬音を組み合わせる感覚に驚きました。
「地平に接しているところ」という境界的な部分に注目し、書き出すことができるところも好きだなぁと思った一首です。
溶けて流れた空は、どこにいくのでしょうね。

あいつの心臓がしぼんだりふくれたりするたんびに、俺は茶をすゝった

「転機」

誰かと一緒にいる時に、相手の「心臓がしぼんだりふくれたり」を感じ取ったことはあるでしょうか?私はありません。
鼓動を感じるはぎりぎりありそうですが、心臓の伸び縮みは想像しないのではないのでしょうか。
まさか相手の命を狙っているのでは…とも思わせられます。
感覚が鋭くて怖いと感じた一首でした。

眼が覚めると口論していた。陰惨な口論の後、母は泣きながら降りていった

「失業」

「眼が覚めると」は本当に寝ていたのではなく、無意識に空返事などを繰り返す状態から、気が付いたら口論になっていた、と読みました。
「失業」という題名から、母親から「お前この先はどうするんだい」などと言われたりしたのかなと想像できます。
「陰惨な口論」の後に母親は泣きながら去っていくので、主体は母親をいじめるような言葉で言い負かしたようです。
「降りていった」とあるから、主体の部屋は二階にあるのかな、きっと同居の母親だろうなと想像がつきます。
たった一行にドラマがぎゅっと詰まっていて、印象に残る一首でした。

ヨーヨーをやってみた。誰も満足に出来ないのでみんなそれで満足した

「新しい性格」

みんな同じようにヨーヨーができないから、なごやかな雰囲気で終わった。
誰か一人でもうまくできたら、集団のバランスが崩れてしまっていたでしょう。
人間のプライドを感じる一首だと思いました。

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