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北山あさひ『ヒューマン・ライツ』

北山あさひさんの『ヒューマン・ライツ』を拝読しました。
好きな歌を引いていきます。

しなくていい苦労をせずに生きてほしい白桃、桜桃、無花果、李

この歌集の中で一番好きな歌です。
そうだよな、そうなんだよな、と何度も頷きたくなる歌です。
苦労なんてしなくていいんですよ。
理不尽なんてない方がいいんですよ。
それでも、事故のように出会ってしまう。
こんな目に遭うのは私で終わりにしたい。
私で終わりにしてみせる。
そして、あなたたちがどうか幸せでありますように。
祈りと同時に決意をにじませる、傷つきながらも力強い歌です。
とても好きです。

月に魔力、がんもに浮力 わたしには詠めないことのある健やかさ

空を見て、手元を見て、そして自分の中をふと見つめる。
どうがんばっても自分はこんな風には詠めないな…と感じる歌に出会うことが結構あります。
ついつい私は落ち込みそうになるのですが、この歌ではそれを「健やかさ」と言い切ります。
私には私の世界の見方があり、ある人にはある人の世界の見方がある。
同じでないという事が、健全で「健やか」であることなのだと、教えてもらえた気がしました。

いろいろな歌集に理想のお父さんのようなものいて閉じる閉じる閉じる

印象に残った歌です。
家族関係ってとてもデリケートで、なのに「理想のお父さん」をみんなが持っているような気がしてしまうんですよね。
「こんな人だったらよかったのに」「こんな関係性がよかったな」とついつい羨んでしまうことが、私にもあります。
「閉じる閉じる閉じる」は、本を閉じるだけではなく、心の中の本音をしまった部屋の扉も懸命に閉めているように感じました。


三首とも、「同じじゃなくていいんだよ、あなたはあなたで、私は私で生きていくんだよ」と言ってくれているような気がしました。
それぞれの生き方、向き合い方、闘い方があっていいんですよね。
さあ、前を見据えて自分の道を行きましょうか。
私たちはひとりだけれど、ひとりで歩いている人は、私一人ではないのですから。


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