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豊國佳『はためく』

豊國佳さんの歌集『はためく』を拝読しました。
好きな歌を引いていきます。

永遠に外つ国の語を操れずけれども母語も得意ではない

主体は外国語に向き合う生活をしているのかもしれませんね。
外国語を操るには相当の努力や時間が必要だと思います。
そうやって自分を慰めてみるものの、いや、そもそも私は日本語で自分の気持ちや感情を言語化できているのか?と気づいてしまう。
言葉を使うということは、自分以外の誰かとコミュニケーションを取りたいと思っているということ。
拙くても、上手じゃなくても、「伝えようとしている何か」を受け取ろうとしてくれる他者がいれば、もしかしたら言葉の習熟度など気にしなくても良いのかもしれないですね。

Num Lock オフで数字を打つような無垢さでひとと拗れてしまう

Num Lockはテンキーの付いているキーボードにあるボタンですね。
オフにすると、テンキーの数字が押せなくなります。
知らぬ間に押してしまっていて、数字が入力できずに小さなパニックを起こすことがありますよねぇ。
この歌ではNum Lockをオフにしているので、主体は押しても押しても数字が入力できない状態になっています。
無垢な主体は不思議そうな顔をしながら、テンキーを押し続けているのではないでしょうか。
原因を探すのではなく、ひたすら入力できないキーを押し続ける主体。
無垢であることと、無知であることは際どいほど似ていて、主体は知らず知らずのうちに周りとの関係が拗れてしまうのだと読みました。
Num Lock の機能に着目したことを面白く感じたことと、主体を「無垢」と表現していることに切ない優しさを感じたことで、好きな一首です。

正当な理由があって怒るとき噎せ返るほど生花が香る

怒るのに「正当な理由」ってなんでしょうか。
私は、他人からぞんざいに扱われたときではないかと考えました。
自分のために怒るというのは、ちょっと億劫で、なかなかできないことだったりしますよね。
なあなあにしてしまって、後から悔しくなったりして。
この歌の主体は、怒りのタイミングを逃さない人なのではないかと思いました。
下の句は、怒りの感情が、主体の周りを取り巻くように、ぶわっと空気が変わる様を表現していると読みました。
私は怒るのが苦手なのですが、ここぞという時に自分のために立ち上がって闘える人は格好いいのではないかと、この歌を読んで思いました。

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