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雪舟えま『たんぽるぽる』

雪舟えまさんの『たんぽるぽる』を拝読しました。
好きな歌を引いていきます。

表紙見ただけで涙が出る童話と同じ第一印象のひと

この「童話」は、幼い頃から慣れ親しんでいて、話の展開も結末も知っている。
そして、表紙を見ただけで、味方が来てくれたみたいで、ほっとして涙腺が緩んでしまう、と読みました。
その印象を人が持っている。
なんとも面白い。
出会った瞬間に泣きたくなるような、そんな人がいた。
これは主体にとっては、事件ともいえる出来事なのではないでしょうか。
今でも胸の中に童話を抱きしめている主体が、目の前のこの人と仲良くなれたらいいなと思いました。
好きな一首です。

明け方にパンと小さくつぶやけばパンが食べたいのかときかれる

言葉的には何もおかしくないのに、それじゃないのだと言いたげな主体を明確に感じます。
さびしいなのか、かなしいなのか、寄り添ってほしいなのか、そういう感情をぜんぶ混ぜて、出てきた言葉が「パン」だったのでしょう。
それで読み取って欲しいと思うのは理不尽にも思えます。
ですが、「きかれる」という無感情な結句がまるで暴力を受けたように、主体が傷ついたことを伝えてきます。
シンプルで、たがらこそ痛みを伝えてくる、好きな一首です。

ふたりだと職務質問されないねきけんなつがいかもしれないのに

自然と深夜に路上を散歩している景を思い浮かべました。
ふたりでいると職務質問されないものなのでしょうか?
また、以前にひとりでいたとき、主体は職務質問されたことがあるのでしょうかね。
「きけんなつがい」という言い回しが、「オレたち最強」と言っているようで、微笑ましいです。
きっとふたりは何もしでかさず、好きなだけぶらぶらして、ふたりだけのおうちに帰っていくのだろうなぁと思いました。

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