奥村晃作『蜘蛛の歌』
奥村晃作さんの歌集『蜘蛛の歌』を拝読しました。
印象に残った歌を引いていきます。
「バリリバリリ」が痛々しく感じます。
正常な細胞がどんどん壊されていく様を表しているように思いました。
身近な人の体を蝕んでいく音を、主体は確かに聞いたのかもしれません。
「考えに考える」がすさまじいです。
相手の身で考えると、九分九厘負けている碁を、負けないように負けないように必死に繋いでいく。
ここからでも負けるものかと知恵を絞り続ける様は、壮絶とも言えるのではないでしょうか。
「フツーに」「さっさと」に苛立ちを感じます。
自分の認識と、実際の体の動きに乖離があるほど、もどかしさを感じますよね。
私も足を痛めて歩きにくかった時の経験を思い出し、共感できるなぁと思う一首でした。
「サラワレテユク」「サラッテクノカ」というカタカナ表記に、死という理不尽に対する、主体の憤りを感じました。
どうしようもないことに抗いたい気持ちは、どこにも置き所がありません。
でも決して昇華することはできない。
だから、こうして歌にしている。
選ばれた言葉自体は難しくなく、しかし込められた思いは深いと思わされる一首だと感じました。