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中村森『太陽帆船』

中村森さんの『太陽帆船』を拝読しました。
好きな歌を引いていきます。

帆を揚げる 会いたい人に会いに行くそれはほとんど生きる決意だ

ああ、そうだなと頷いてしまう一首でした。
他でもないあなたに、私は私のままで会いに行く。
完全で、ぴったりな関係なんてなくて、人はすれ違ってしまうこともあるけれど、でもあなたに会いたいと思った私の想いは本当で、切実で、ぴかぴかと光っているようです。
誰かに会おう、会いたい、会いに行こうと思う時、人は今を、そして未来を生きようとしているのだと思いました。

あなたにはガラスでいたい落としたり悲しかったら、きちんと割れる

自分が壊れそうになっても、相手に対して誠実でいたいと願っている歌だと読みました。
あなたに対して、平気なふりをしたくないのです。
感情そのまま、寸分の違いもなくありたいのです。
なんて自分勝手で、一途な想いなのでしょう。
壊れるか壊れないかの二択を迫られるような人生はとても怖いです。
でも、そんな相手と出会った人生に、憧れたくなるような気もしました。

〈祈るから救われる〉ではないだろう救いがないから祈り続ける

悲しくて、でも生きることを諦めない歌だと思いました。
主体にとって、祈ることと生きることは繋がっているのではないでしょうか。
生き続ける限り、主体は祈り続けるのです。
体を縦にしているだけで疲れるような、息をすることすらうっとうしいような、救いのない気持ちになることが、主体にはあるのかもしれません。
でも、主体は祈るのです。
この先の生が、よりよいものになりますようにと。
ずっとずっと祈っていくことを心に決めている、諦めない歌なのだと私は思いました。

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