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大森静佳『てのひらを燃やす』
大森静佳さんの『てのひらを燃やす』を拝読しました。
好きな歌を引いていきます。
眠るひと見るのが好きで見ておればつくづくと眼は球体である
なぜ「眠るひと」を見るのが好きなのでしょう。
無防備な姿を見ているのが好きなのでしょうか。
眠るひとを見つめていて、閉じた瞼を見ていると少し膨らんでいて、眼球の存在を感じたのだと読みました。
人間の構造を珍しがるように、見えない部分を見ている様が少し怖いと思いました。
合歓の辺に声を殺して泣いたこと 殺しても戻ってくるから声は
好きな一首です。
上の句の湿ったような雰囲気から一転、下の句では冷静さを取り戻しています。
あの時の揺さぶられた感情を忘れたわけではない。
傷跡は確かに残っています。
しかし、「泣いたこと」はもう主体にとっては過去のことなのでしょう。
主体は、誰かに助けを求めることもせず、一人で傷を癒そうと生きてきました。
冷酷にも感じるような下の句の切り替えが好きです。
生きている間しか逢えないなどと傘でもひらくように言わないでほしい
「言わないでほしい」という懇願や困惑が印象に残る一首です。
「生きている間しか逢えない」に、もしかしたら主体は同意しているのかもしれません。
ただ、主体にとってはそれは重要なことで、傘をひらくような日常の動作で口にしたくはないのでしょう。
主体と相手の認識の齟齬を味わう一首だと思いました。