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流行になりたい - 最後の不良 - ReadLog
どんな人も、親しんでいる流行というものがあると思います。
例えば私なら、PCゲームとか、SF小説とか、YouTubeの動画とか...
ところであなたは、その流行の中のどの位置にいるでしょうか?
流行の先端をひた走っているか、あるいはただ追いかけているだけかも。もしかしたら、流行そのものかもしれません。
もはや、着いていくのに疲れていることだってあるでしょう。
これはそんな、流行にまつわる物語の紹介です。
これは本の紹介と記録を目的としたマガジンです。
時間がない人や面白い本を探している人向けです。
本の一部を引用しながら、少しでも興味を持ってもらうことを目指してます。
概要
タイトル:最後の不良(「嘘と正典」に収録の短編)
作者:小川 哲
ジャンル:SF(どちらかというと、少し不思議 に近い)
備考:この短編集は6つの変な話(いい意味で)を収録してはいるものの、ハヤカワJAに期待されるSF要素は強くない。
SF短編集として読むとちょっと肩すかしかも。だから直木賞の候補作になれた?
あらすじ
舞台は「流行」というものがダサいとされ、流行が滅んだ世界。
主人公は編集していた雑誌の廃刊にともない、辞表を出して最後の不良となる。
そして、世界がこうなった元凶のもとへ向かう。
世界観の特異性
この物語の魅力の一部は、この変わった世界観が担っています。
流行を気にすること、オシャレをしようとすること、自己主張をすることーーそれ自体がダサいという風潮が広がり、人々のライフスタイルは無駄のない、洗練されたものに均一化し、「流行そのもの」が消滅した。
監視社会ではないものの、流行に対する関心が失われた世界はディストピアだと思います。
それがいくら洗練されていて無駄がなかったとしても、彩度が低くて明度が高い白っぽい世界は単調で退屈だろうと想像できます。
私自身は常々、変で個性がある存在でありたいと願っています。それがいかに凡庸な考えだとしても。そんな考えを失わされたとすれば、私は殺されたも同然です。嫌すぎる。
そんな世界とは対照的に、主人公は無性に個性を欲しています。
雑誌の編集者として過去に取材した不良(暴走族)から譲り受けた不恰好な特攻服をまとい、夜の街をバイクで駆け抜けます。
正直、この主人公は全くカッコ良くない。
この個性は自分で勝ち取ったものではないばかりか、不良としての風体も非常にステレオタイプなものでしかありません。
そんなありきたりを縮小再生産した程度にすぎないので、崇敬したり憧憬に足る人物ではありません。
でも、だからこそ共感できるキャラクターと言いたいです。
没個性に均質化するために流行を否定し、だがそれすらも1つの流行のように見える世界と、
個性を得るためにもがいて、でも得られるのはありきたりの属性に過ぎない主人公。
この対比が美しいのです。
流行に乗るということ
主人公は、世界から流行を消した組織の本部に向かいます。そこで実行される抗議活動に加わろうとするのですが、他の参加者と同じように暴れることには抵抗を覚えて、内省を始めます。
なぜこの世界が嫌いなのかを。
桃山(主人公)はスケルトンが嫌いだった。(中略)
たとえば人間は誰だって、皮膚の下には臓器や骨や筋肉があり、消化中の食べ物や大便もある。皮膚はそれらを覆い隠している。服は皮膚の延長だ。汚いものを見えなくする。足の短さを誤魔化し、贅肉を隠す。
それとは逆に、スケルトンは内部の構造、つまり機能そのものを美しさとして見せつけてくる。
()内は筆者注、改行を追加
昔の流行として、ここで「スケルトン」が取り上げられます。そしてそのスケルトンを主人公は毛嫌いしていました。
スケルトンにすることによって露わになるのは機能そのものの美しさではなく、今まで必死に覆い隠してきた汚くておぞましい本質である、と。
そしてそれが、この世界が嫌いな本当の理由ではないのか、と。
(前略)人間はどんどんスケルトンになっている。見栄を張ること、格好つけること、背伸びすることーーつまり人格に服を着込むことはみっともないと思われていて、実直に生きること、本音で話すこと、露悪的に振る舞うことが推奨されている。
流行に乗ることは、自分自身の醜い部分を覆い隠す殻を得ることです。また、周りとの差を産むことで相対的に優位に立てるのです。
一方で流行の存在を拒絶し、皆が流されなくなった世界は、剥き出しのスケルトンで生きなければならない厳しい環境なのでしょう。
そんな世界じゃなくて本当によかった。...ほんとに?
おわりに
物語はここからさらに展開しますが、それに触れてしまうとこの記事の趣旨から外れてしまうのでやめておきましょう。
個性を得たいと願いながらこのような文章を書いて、誰が書いているかなんて気にしなくてもいいプラットフォームに投稿している自分は、物語世界と主人公のどちらに近い存在なんでしょうか?
自嘲的に言ってみたものの、答えは望んでいません。
たまには波に流されず、私で辿りつきたいので。
たまに流行に乗る書籍紹介のマガジンを書いています。前回の記事もどうぞ。