腱鞘炎の痛みにも関係しうる「懐」という身体感覚
現代社会において腱鞘炎になった事がある人は多いと思います。当たり前になったデスクワークやスマートフォンの普及によって、日本人の約10%が生涯で一度は腱鞘炎を経験するというデータもあるくらいです。
「腱鞘炎」は手を多く使う職人さんや前述したデスクワークの方などが発症するイメージですが、実際は子育て中のお母さんが出産に伴うホルンバランスや抱っこの姿勢の影響でなったり、加齢に伴い腱や腱鞘の柔軟性が低くなって起こったります。
また、長時間慣れない道具を使ったり作業を繰り返すことで、短期間でなるケースも。近年ではゲームやSNSなどのやりすぎで「スマホ腱鞘炎」なんて症状があるようです。
腱鞘炎とは
まずPCやゲームなどで手の親指に負荷がかかり過ぎると、親指を伸ばす働きをする「(短母指伸筋)腱」と広げる働きをする「(長母指外転筋)腱」が過剰に働きます。すると、この2つの腱はそれを包むトンネル状の「腱鞘」と擦れて炎症を起こしてしまいます。やがて2つの腱は腫れて太く、腱鞘は腫れて厚くなります。その結果、腱が腱鞘の中を移動するたびに、腱と腱鞘が擦れて、手首に痛みを生じさせることになるんですね。
端的にいえば使い過ぎが原因……なのですが、体の使い方の上手い下手が関連することもあります。
体の操縦と腱鞘炎
例えば、同じ作業をしていているのに腱鞘炎にならない人も一定数いますよね。何故だろうと疑問に思うかもですが、その原因として、とりあえず生来の体の強さは除きます。
前述のように腱鞘炎は手の親指に負荷をかけ過ぎると発症しやすいのは事実なのですが、作業スペースの懐の使い方も問題点の一つになります。ここで言う懐とは「前に出した両腕と胸とで囲まれる空間」のことだと思ってください。
懐をうまく作れると、作業中の負担は親指だけに集中せずに腕全体、背中などにも分散します。反対に懐が潰れてしまうと負荷は一定の箇所だけに集中してしまうので、腱鞘炎になりやすくなってしまうのですね。
とどのつまり、無意識・意識に関わらず懐をうまく作れる体の使い方が出来る人が腱鞘炎になりにくい人であり、体の操縦が上手な人といえます。
含胸抜背(がんきょうばっぱい)
太極拳に含胸抜背という言葉があります。これは「胸を(含んで)背中を(抜く)」という意味なのですが、太極拳に限らず様々な武術などに共通する概念です。所謂、胸を張った姿勢は一見強く見えますが、気は上昇してしまい足元は不安定で弱くなっている状態です。
含胸抜背で胸を含ませます。イメージとしては息を吐き切った状態ですが、そのままだと猫背になってしまうので、同時に背中の力を抜いて下に重心を落とします。こうすると体の軸は安定して懐に余裕も生まれるのですね。
「猫背みたいに力は抜けてるけど決して猫背ではない姿勢」
何だか分かりにくいなと思った方は、来院し私に聞いてくれても構いません(一応太極拳初級インストラクターです)
また今は便利な時代なので、YouTubeで含胸抜背と検索すれば、親切な動画も沢山出てきます。
何やかんや言いましたが、まぁ猫背はいかんよねってこと
結局のところ原因の全てとは言いませんが、腱鞘炎の原因には姿勢の悪さも大きく影響をするという事です。
頭が前へ落ちれば首肩を中心とした筋肉の可動域は小さくなり、使える一部の筋肉に余計な負荷がかかる。それが手の親指に集中すると腱鞘炎になってしまうわけです。
このプロセスは腱鞘炎に限らず、首・肩・肘の痛みや、頭痛・眼精疲労にも波及してしまいます。このお話に少しでも成る程と思ったら、試しに1~2時間でも胸を詰まらせないようにして生活してみて下さい。
炎症を起こした腱や腱鞘は直ぐに収まるわけではありませんが、負荷が小さくなって痛みが軽減するのが感じられると思いますよ。