「第1回NIIKEI文学賞」ショートショート部門落選作『義弟記』
父の死を知つたのは大家からであつた。
驚いて母に聞くと、父の昔の同僚からお悔みの電話があつたとのことである。
なぜ默つてゐたのか聞くと、その同僚も噂で聞いたに過ぎないらしく、確かではないからと云ふ。
父の死にシヨツクを感じなかつたことがシヨツクであつた。
最後に父に會つたとき、再婚相手との子が私によく似てゐると嬉しさうに云つていたことを思い出すと、無性にその、弟に會いたくなつた。
母を問ひ詰めて父の、往來があつた數年前の時點での在所を聞くと、次の土曜にその場所−−佐渡にある父の生家を訪ねた。
呼鈴を鳴らすと、直ぐに高い、少年の聲が聽こえた。
確かまだ中學生くらいの筈である。
何と傳えるか考えてゐなかつたことに氣づいて焦りつつ、父の名前を出し、緣故の者だと正直に吿げると、暫くして私とは似つきもしない、長身の少年が現れた。
然しなる程、確かによく似てゐる。
いや、殆んど同じである。
それは私と全く同じ面であつた。