マイクロノベル『たらこスパゲテイ』
先日犬と街灯さんでの『読む前に書け』という、その場で出たお題で15分、400字詰原稿用紙一枚で書くというイベントで書いたものです。
お題は阿瀬みちさんの出した、タイトルと同じく「たらこスパゲティ」でした。
旧仮名、旧漢字への変更とほんの少し推敲してます。
元ネタは
舌といづれほぐるるつぶのたらこかな 三橋敏雄
孵りたかったであろう数の子夜が深む 池田澄子
でした。
『たらこスパゲテイ』
その生れ得なかつた無數の夥しい命のひとつひとつ、ひとつひとつについて想ひを巡らせる。到らせる。
そうやつてパスタに絡むたらこのひとつぶひとつぶを噛む。噛む。味わふ。
……そんなことができるものかツ!とフオークとスプーンを投げつける。
そのフオークにもスプーンにも無數のたらこが纏わりついてゐることを思ふとゾツ……とした。
しばらくして氣が落ちついた頃、遠いやうな、近いやうな、大きいやうな、小さいやうなポチヤン、という音が聽こえた。
すると、店の奧の暗がりからずるずる、ずる、ずる、と何かを引きずる音が近づいて來る。
目の前に現れたのは魚の頭をした女だつた。
女は私に、あなたが投げたのはたらこですか、それとも……と云つたところで私の意識は薄れてゆき、その後は聽こえなかつた。