[report]『TRIO パリ・東京・大阪 モダンアート・コレクション』(東京国立近代美術館)
※ タイトル画像
左:ヴィクトル・ブローネル《ペレル通り2番地2の出会い》パリ市立近代美術館 蔵
中:ルネ・マグリット《レディ・メイドの花束》大阪中之島美術館 蔵
右:有元利夫《室内楽》東京国立近代美術館 蔵
開催情報
『TRIO パリ・東京・大阪 モダンアート・コレクション』
場所:東京国立近代美術館(東京都千代田区)
開催日:前期 2024.5.21.tue-7.7.sun / 後期 7.9.tue-8.25.sun
入館料:2200円(一般)
※ 萬鉄五郎《裸体美人》は 7.23.tue-8.8.thu 作品保護のため展示を一時休止。
休止期間中は萬鉄五郎《裸婦(ほお杖の人)》を展示。
内容:パリ市立近代美術館、東京国立近代美術館、大阪中之島美術館、3館のコレクションから共通性のある作品でトリオを組み、構成。
110名の作家、150点あまりの作品で34のトリオを組み、20世紀初頭から現代までのモダンアートの新たな見方を提案し、その魅力を浮かび上がらせる。
(美術展チラシより抜粋)
※ 2024.9.14.sat-12.8.sun 大阪中之島美術館 巡回予定
主な登場人物(?)
パリ市立近代美術館 | Musee d'Art Moderne de Paris (1961-)
シャンゼリゼ通りとエッフェル塔の間に位置するパリ市立近代美術館は、1937年の万国博覧会で建設された建物内にあります。15,000点以上の作品を所蔵するパリの重要な文化施設であり、フランス最大級の近現代美術館の一つです。東京国立近代美術館| The National Museum of Modern Art, Tokyo (1952-1969-)
東京の中心・皇居のお濠を前に建つ日本で最初の国立美術館。最大の特徴は、横山大観、上村松園、岸田劉生らの重要文化財を含む13,000点を超える国内最大級のコレクションです。19世紀末から現代までの幅広いジャンルにわたる日本美術の名作を、海外の作品もまじえて多数所蔵しています。大阪中之島美術館| Nakanoshima Museum of Art, Osaka (2022-)
2022年、大阪市中心部に開館。19世紀後半から今日に至る日本と海外の代表的な美術とデザイン作品を核としながら、地元大阪で繰り広げられた豊かな芸術活動にも目を向け、絵画、版画、写真、彫刻、立体、映像など多岐の領域にわたる6,000点超を所蔵しています。
(展示室内キャプションより)
単語
【レザネ・フォル(狂騒の時代)】1920年代フランス。第一次世界大戦後、パリで芸術が花開いた。
【シュルレアリスム(超現実主義)】1924年作家アンドレ・ブルトンの「シュルレアリスム宣言」によりはじまった、文学、美術、映画など他分野にわたる運動。20世紀最大の芸術潮流の一つ。
【アプストラクシオン・クレアシオン(抽象・創造)】抽象芸術化たちのグループ。1931年パリで結成。岡本太郎も参加。
(主に展示室内キャプションより抜粋・編集)
章構成覚書
プロローグ
コレクションのはじまりを刻んだ作品の中から、椅子に座る人物像を紹介
1.コレクションのはじまり
Ⅰ:3つの都市:パリ、東京、大阪
20世紀の芸術家たちは、この三都をどのように表現してきたか
街そのものへの視点を喚起→写実に基づいた表現の絵画・版画、写真
2.川のある都市風景
パリ:セーヌ川+ノートルダム大聖堂
東京:関東大震災から復興した川辺
大阪:堂島川 「煙の都」
3.都市と人々
パリ:モンマルトルの丘に近い、石造りの建物が建ち並ぶ通り
東京:新宿のビル街
大阪:道頓堀 「水の都」
4.都市のスナップショット
パリ:路上で繰り広げられる日常をユーモアや愛情のこもった視線でとらえる
東京:戦後の復興、高度経済成長期、赤線跡。大都市の急速な発展と、そこから取り残された人々や建物。
大阪:鉄橋、街灯、人々の暮らしと記憶が積み重なった街、戦後復興の中で失われていく海岸部の風景
Ⅱ.近代化する都市
近代都市を題材とする作品から、多様な表現方法を追求した20世紀の芸術たちの試みを紹介。
進歩や先端性など都市のポジティブな面のみならず、孤独や破壊などネガティブな面にも視線を注ぐ。
5.加速する都市
未来派の運動:1909年イタリア。機械を賞賛し、スピードという要素を芸術に取り入れた。
路面電車、駅、電車を描いた作品。
6.広告とモダンガール
大量生産と消費、新たな娯楽。
消費活動の中心となった百貨店→広告のためのポスター芸術。
7.都市の遊歩者
都市の暗く、静かな面。うら寂しい都会風景。
都市というにぎやかな場所に身を置きながらも感じる、孤独や不安、疎外感。
8.近代都市のアレゴリー
"近代都市"をモチーフに置き換えて表現した作品
9.都市のグラフィティ
20世紀の路上のアート作品
Ⅲ.夢と無意識
20世紀:科学技術の進歩、産業化の加速、戦争→夢や無意識の領域へ目が向けられた
夢や無意識、空想、幻想、非現実、メタファーを表現に取り入れた作品を紹介。
合理主義が行き詰まりを迎えた時代に、理性や先入観から離れて、人間はどこまで自由になることができたか。
10.空想の庭
植物に深いゆかりのある画家
11.夢と幻影
自然のことわりから逸脱し、夢や幻影が具現化したような世界。
12.戦争の影
抽象が反体制的とみなされた時代の葛藤、精神的な抑圧の暗示
13.現実と非現実のあわい
過去の絵画を参照し、画家の分身のような存在を描き込むことで、現実と非現実が重なり合う。
14.まどろむ頭部
親密であると同時にどこか別の世界にいるような、近くて遠い存在。
Ⅳ.生まれ変わる人物表現
絵画の歴史において形成された人物画の型という制約の中で、表現の幅を押し広げていった作品。
理想美の解体と新たな美の創造。
15.モデルたちのパワー
男性に見られる対象→視線を跳ね返し、美を誇るようなパワー
16.自画像
17.こどもの肖像
18.女性たちのまなざし
19.美の女神たち
20.人物とコンポジション
コンポジション=構成、構造、組み立て
Ⅴ.人間の新しい形
理想的な人体美の追求という伝統との決別
キュビズム(立体主義)=遠近法にたよらない空間表現を追求する中で試行された造形的な探究
機械化した新しい人間のイメージ
行き過ぎた機械化や合理主義→自然で素朴な人間像
第二次世界大戦の惨禍→人間の存在そのものの問い直し。人間の本質を追求。
「人間とは何か」という根源的な問いに対する芸術家の模索
21.分解された体
キュビズム
22.機械と人間
23.プリミティヴな線
自由奔放に引かれたかのようなゆらぎのある線
人間が本来持つ原始的な創造のエネルギー
24.デフォルメされた体
戦後の新しい人間像を模索
Ⅵ.響きあう色とフォルム
20世紀の特徴:色と形そのものが作品の主役になっていった
作品そのものの内部で、あるコンセプトやルールのもと、色や形、素材と向き合うことで制作された作品。
25.有機的なフォルム
抽象的表現と生命感を共存させようとした作品
26.色彩とリズム
27.差異と反復
28.色彩の生命
抽象的な要素で構成されているが、温かみのある親密な雰囲気を宿す作品
ロスコ「私の作品は抽象画ではない。生きて呼吸している」
ポリアコフ「透明性は生命を与える」
辰野登恵子「実在感を持った絵画」
29.軽やかな彫刻
空中に描かれたドローイング
Ⅶ.越境するアート
絵画や彫刻といったジャンルを越境するような表現
時代と並走してきた3つの美術館の「いま」
30.ガラクタとアート
廃材や身の回りの品で形作られた作品。
31.日常生活とアート
日常生活で用いるモノをアートの領域に引き入れることで、既成概念に揺さぶりをかける
32.ポップとキッチュ
ハイ・アート、ロウ・アートの区別がなくなっていく
33.自己と他者
映像の特徴を活かして、ときに痛みや摩擦を伴う自己と他者の関係を浮き彫りにする
34.カタストロフと美
東日本大震災、コロナ下のロックダウン…
時が経っても、それぞれの出来事を想起し、思いを寄せることを可能にする。
感想
パリ、東京、大阪。3つの都市の近代美術館が、テーマ毎にコレクションをトリオで展示。
20世紀初頭の3都市の風景を描いた作品から始まり、現代美術まで、時系列で世相に応じた作品が章展開される。
時代の流れと、それに呼応した美術の流れが感じられた。
3館のスタッフがテーマや出品作をどれにするか、ワイワイ話しているのを想像してしまう。
「見て、比べて、話したくなる。」のキャッチコピー通り、どれが好き?あなただったらどれを出品する?こんなテーマも観てみたいね、あの館のも観てみたいなと、誰かと話したくなる。
私が一番好きなトリオは「6.広告とモダンガール」。
左に近鉄百貨店(早川良雄)、右に三越(杉浦非水)のポスター、センターは「モンパルナスのキキ」。
昭和モダンの街を闊歩するモダンガールを連想。
Ⅱ章の最後「9.都市のグラフィティ」の街角を曲がると、Ⅲ章 夢と無意識の部屋になるのも楽しい。
心なしか、Ⅲ章の部屋は空気がふんわり色づいているように感じる。
この部屋から次のⅣ章、今展メインビジュアルの3美人がチラッと見えるのもテンション上がる。
Ⅳ章 「15.モデルたちのパワー」は、今展のメインビジュアル。
萬鉄五郎《裸体美人》は、東京国立近代美術館の常設展でよく展示されているので何度も観ているのだが、今まで強い感情を抱いたことはなかった。
しかし、こう展示されると、郷土愛的な、母校の試合を応援するような、「いよっ!待ってました!」というような、美術鑑賞とは違う気持ちが湧いてくる。
せっかくなので3人の記念写真が撮りたいところだが、本日、平日ながらそこそこの賑わい。1作品なら写真が撮れるが、トリオで撮るのはちょっと難しい。
まあ、写真撮るために来たんじゃないもんね〜と、眺めていたら…突然、周囲の人の気配が消えた。アレ?ダレモイナイヨ?ダレモイナクナッタ…
振り返るとⅢ室も無人だった。
最初に思ったのは厨二病的発想で、時が止まったとか、時空の狭間に〜とかで、次に「私、なんか逃げそびれてる?」と思い、しかし、よく見ると部屋の隅にスタッフさんは平然と立っている。よくわからないけど、とりあえず危険ではないらしい、と判断。貸切を満喫することにした。
(後から判断するに、この時、にわか雨が降ったようだ)
…話は戻り、萬鉄五郎《裸体美人》を応援する気持ち、と、言えば、こっちも(ちょっと違う意味で)応援したい冨井大裕 《roll(27 paper foldings)#15》。
もともと TRIO展は、行く予定はなかったのだが、フォローしている薪さんの記事を拝見して、行ってみたくなった。
そして、同じ薪さんの記事で冨井大裕 《roll(27 paper foldings)#15》が話題になっている。
折り紙彫刻ということで、だいぶへたってきているようなのだ。
展示作品は盛りだくさんで、トリオでの展示も楽しく、見応えのある美術展だった。
パリ市立近代美術館と大阪中乃島美術館の作品は初めて観る作品が多く、割と見覚えのある東京国立近代美術館の作品もトリオで並べると新鮮だった。
実は、私は大阪に行ったことがない。
先日の大阪中乃島美術館「福田平八郎展」も、みなさんのレビュー記事をイイナーと指をくわえて眺めていた。
パリは厳しいが大阪には、一度くらい行ってみたい。
さて!今期は、TRIO展とコラボで、美術館前にジェラードのキッチンカーが出ているはず。
さあ、ジェラードを食べて、常設展に行こう!と思ったら…売り切れ…
のんびりしすぎたか。いや、まだ14時なんだけど。早くない?
体力的に常設展も回るのは厳しいとわかっていながらも、足は向かってしまう。
最近、常設展 1室ハイライトでは、素材についての解説があるようで、今回は萩焼に使われる土で…
…しかし、疲労と空腹で私の目には落雁的なものに見えています。あまりおいしくはなさそうだとは思っています。
「砂糖」じゃなくて「砂礫」です。
9室 写真は、ウジェーヌ・アジェ…
…力尽きた…