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[report]『おかえり、ヨコハマ』(横浜美術館)


開催情報

横浜美術館リニューアルオープン記念展『おかえり、ヨコハマ』
場所:横浜美術館(神奈川県横浜市)
開催日:2025.2.8.sat-6.2.mon
入館料:1,800円(一般)
※ 休館日は木曜日!

内容:リニューアルオープンを記念して、「横浜」をキーワードに、美術館のコレクションに立ち返る展覧会を開催。テーマは「多様性」。

※ 紙の作品リストなし
※ 撮影不可の作品以外は撮影可(作品のみは不可…のようです。書いてないけど。)

【同時開催】
『コレクション展』
開催日:2025.2.8.sat-6.2.mon

『リニューアルオープン記念 オンライン作品
SIDE CORE×横浜美術館「KAIROS/カイロス」』
公開期間:2025.2.8.sat 10:00 - 2026.3.31 23:59

↓ 期間限定・枚数限定で年パス販売中


章構成覚書

1 みなとが、ひらく
 縄文時代
 テーマ「女性」「子ども」
日々のよろこびや悲しみ、願い

2 みなとを、ひらけ
 1853 ペリー、浦賀に来航
 1859 日本の5つの貿易港のひとつとして開港
 
 物価高騰、外国人襲撃事件、薩英戦争、駐留軍(イギリス、フランス)、戊辰ぼしん戦争
開港後すぐ開港した横浜の遊郭
→一度移転してすぐ大火で8年で姿を消す。(亡くなった遊女400人)
 その後、吉原町(現在・羽衣町)、高島町と移転。1888年に真金町に移り、1958年の売春防止法完全施行まで営業を続けた。
緩衝地帯として、遊郭や赤線を設ける発想

3 ひらけた、みなと
1921
 「コンタクト・ゾーン(接触領域)」文化と文化がぶつかるところ(文化人類学)
 みやげもの・輸出向けにたくさんの産業が生まれる
 五姓田善松(1855-1915)

4 こわれた、みなと
1889 横浜の人口 11万人
今村紫紅(1880-1916)、牛田雞村(1890-1976)、原三渓(1868-1939)
1923 関東大震災

5 また、こわれたみなと
戦争が近づく横浜。
松本竣介《Y市の橋》

6 あぶない、みなと
1945.5 大空襲
戦後は、港や繁華街を含む広い範囲が占領軍に接収。
占領下の横浜
慰安施設→その中で生まれたこどもたち
アクション映画の舞台「港の倉庫」「犯罪組織」のイメージ

常盤とよ子(1928-2019)写真家

7 美術館が、ひらく
1983 みなとみらい21地区の開発(三菱重工横浜造船所跡地)
1989 「横浜博覧会(YES'89)」開催。横浜美術館開館(丹下健三設計)。

画家とモデル。描かれたモデルたちが担った大きな役割
オルタンス・フィケ=セザンヌ、マリー=テレーズ・ワルテル

・作品の収集・保管・展示機能
・創作活動を行うアトリエ機能
・美術について学情報センター機能
3つを併せ持つ総合的な施設
→3つの部門が横一列につながる設計

目的を定めないスペースが多く取られる
入口の大空間「グランドギャラリー」
美術館が広場のように人びとが自由に使いこなす場所となるように、との丹下の考えに基づく。
開館後、市の出資と市民から寄付をあわせた横浜市文化基金により、セザンヌ、ピカソ、マグリットなどの名品を購入。

8 いよいよ、みなとがひらく
子どもと、私たち大人の中にいる子どものために、未来への希望を探る。


コレクション展

1980年代の表現ージェンダーの視点から
多くの女性アーティストの登場
「関西ニューウェーブ」椿昇、森村泰昌、松井智恵、石原智明
多様性の流れを大きく後押し

金彩と釉薬のかがやき

ガラスとひかり


感想

横浜美術館が大規模改修工事を終え、ついに全館始動!
「みなとが、ひらく」をミュージアムメッセージに、港町の美術館として「あなたという港がひらく場でありたいと思います」とのこと。
テーマは「多様性」。
入り口を入ると、やわらかいピンク色の什器が目を引く。

横浜美術館のメイン素材「御影石」から色を抽出し、11色のキーカラーとして什器に施している。(館内解説より)
真新しい什器。新品の匂いがする。

右手に車椅子用のスロープ。(作品でもある)
グランドギャラリー内にエレベーターも1基新設。車椅子やベビーカーで2階への移動がしやすくなった。

檜皮一彦《walkingpractice / CODE: OKAERI [SPEC_YOKOHAMA]》2024

入ってすぐの「グランドギャラリー」は無料エリア。
美術書が読めるコーナーもあり。(横トリの時にもあったが)
左手には小さい子向けのスペースもあり、絵本なども置いてあった。授乳室も増やしたそう。

1F グランドギャラリー、ロッカー裏のギャラリー8、図書室前のギャラリー9は無料で観覧できる。椅子がたくさんあるので、みなとみらいに来たついでに、ちょっと休んでいったり、本を読んでいったりというのもできそう。
美術図書室は3階から地上階に移り、利用しやすくなった。
個人的にはカフェが「馬車道十番館」というのも嬉しい。

リニューアルオープン記念展は「おかえり、ヨコハマ」。
…ん?"おかえり"?と、思ったが…

タイトルには、「3年ぶりに横浜美術館が帰ってきた」という意味と、「異なる時代にいろいろな地域からやってきて横浜に暮らした(あるいは現在暮らす)さまざまな人たちを、あらためて『おかえり』と言って迎え入れたい」という希望が込められています。

企画趣旨 館長 蔵屋美香 より

…との事。

展示は時代とともに時系列で、埴輪から始まる。
1859年に横浜開港。

2 みなとを、ひらけ
画像が見づらく申し訳ないが、この浮世絵面白い!
左下にオレンジのターバンを巻いたインド人風の男性。
右で羽つきしてる女性は、黒髪だけど洋装だから外国人だろうか。
上のリストは単語表のようで「米 ライス レイス」「酒 ワイン ウィン」「嬉 グラロト フレイ」などと書いてある。

歌川貞秀(1807-1878)《横浜商館真図》1861 多色木版、大判三枚続 横浜美術館 齋藤龍氏寄贈

3 ひらけた、みなと
女性作家の展示も目立つ。
五姓田義松の妹・渡辺幽香ゆうこうは初めて知った。
明治時代の女性洋画家の草分けの一人だそう。
シカゴの万国博覧会(1893)に出品した作品は、額もかわいらしくて目を惹く。

渡辺幽香(1856-1942)《幼児図》1893 油彩、カンヴァス 横浜美術館

4 こわれた、みなと
撮影不可の牛田雞村《藁街の夕》(「蟹港二題」より)横浜市民ギャラリー所蔵 がレトロで幻想的。
実際にあったものも描かれているが、こういう道路の場所はなかったそう。
↓ 横浜市民ギャラリーのサイトに画像あり。


そして、1923年関東大震災。
中島清之《関東大震災画巻》は、震災後の焼け野原になった山下町、館内、伊勢崎町周辺を描いた作品。焼け残った建物の名前が書き込まれていて、生々しい。

中島清之《関東大震災画巻》1923 紙本淡彩(1巻)
横浜美術館 中島清之氏寄贈

5 また、こわれたみなと
個人的に今展の目玉、松本竣介《Y市の橋》大集合!
「Y市の橋」=横浜駅きた東口近くの月見橋。
1941年に同じ場所を描いた作品(撮影不可)には金属製の親柱が見えるが、1941年金属類改修令が交付され、柱が亡くなってしまった。
以降、松本の絵からも柱がなくなり、土台だけになった。…という解説に、そうなんだ!と驚く。…言われなかったら、気づいてないかも。
神奈川県立近代美術館所蔵(展示期間2.8-4.9)と個人蔵(展示期間4.18-6.2)が入れ替わり。
個人蔵の見てみたかったなあ…どうしよう…

松本竣介(1912-1948)《Y市の橋》油彩、カンヴァス
(左から)1942 岩手県立美術館
1943 東京国立近代美術館
1943 神奈川県立近代美術館(展示期間 2.8-4.9)
1946 京都国立近代美術館

スケッチ帳の展示もあるぞ!

松本竣介《スケッチ帖:TATEMONO 3》個人蔵

6 あぶない、みなと
戦後の占領の頃。
米軍兵のための慰安施設で働く女性たちや、その中で生まれた子どもたちの写真。

常盤とよ子(1928-2019)《窓》1955 ゼラチン・シルバー・プリント
横浜美術館 常盤とよ子氏寄贈

盆踊り大会で派手な服を着て無表情に踊る「常盤とよ子《国際盆踊り大会のお六さん》(横浜都市発展記念館所蔵)」が、印象に残ったが撮影不可なので、代わりに別のお六さんの写真をご紹介。
パネルの反対側、幻のように佇む真っ白な「メリーさん」も印象深い。(撮影不可)

常盤とよ子《追想》1969 ゼラチン・シルバー・プリント
横浜美術館

7 美術館が、ひらく
1989年、横浜美術館開館!
セザンヌ《縞模様の服を着たセザンヌ夫人》、ピカソ《ひじかけ椅子で眠る女》など、この頃収蔵した名作が並ぶ。

マン・レイの写真を見つめる(?)《リス》、この置き方好き。

メレット・オッペンハイム《リス》1969(再製作)ウレタンフォーム、ガラス、人工毛皮
横浜美術館

ベーコンが恋人ピーター・レイシーを描いたとされる作品は、大きさもあり、怖かった。…これはヤンデレなのか?

フランシス・ベーコン(1909-1992)《座像》1961 油彩、カンヴァス 横浜美術館

8 いよいよ、みなとがひらく
最終章。
小さい椅子が並べられた子ども向けコーナー。
マグリット《王様の美術館》も展示。
桂ゆき《はだかの王様》がかわいい!
王様と民衆、それぞれに貼ってある新聞の内容で両者の温度差が感じられる。

この子ども向けコーナー自体は良いのだが、隣の折元立身《ベートヴェン・ママ》の歌声が気になって、こっちの絵に集中できないのは私だけだろうか。
《ベートヴェン・ママ》自体は、まどみちおの「アルツのハイマーくん」を連想して嫌いではないのだが、大人の私が気が散るなら、子どもも気が散るのではと思った。

桂ゆき《はだかの王様》1969 油彩、小石、紙、板
横浜美術館
マックス・エルンスト《少女が見た湖の夢》1940 油彩、カンヴァス
横浜美術館
…大好きなので、貼らずにいられない。

企画展最後は奈良美智《春少女》。
ふるさと、東北を襲った東日本大震災の後、描いた作品。
今までの横浜美術館の顔はマグリット《王様の美術館》だと思うが、新生横浜美術館の顔は《春少女》なのだと思った。

奈良美智(1959-)《春少女》2012 アクリル絵具、カンヴァス
横浜美術館

私が行った時はなかったが《春少女》グッズ各種販売予定らしい。
チョコ缶かわいいが、2月15日発売で、もう売り切れらしい。



ここから、コレクション展。
ギャラリー5
淺井裕介《八百万やおよろずの森へ》
9枚のパネルを組み替えて展示でき、作家により7種の組み合わせパターンが設定されている。
今回は「パターン2」ー異界、懐かしさ、素足、番人、組み合わせの魔法、交換、はじまりの壺、星屑、噛むー
地元の土を使った淺井裕介の作品は川崎市岡本太郎美術館でも見たが、その土地を知っていると楽しさが格段に違うと思った。
野毛山動物園 旧象舎裏、日産スタジアム近く、横浜スタジアムのピッチャーマウンド…
ここの土はこんな色なのか、絵のどの部分に使われているのだろう、と考える。

淺井裕介《八百万やおよろずの森へ》2023
横浜を含む日本各地の土、アクリル脂、木炭、鉛筆、弁柄、9枚のパネル
横浜用金庫創立100周年記念寄附による購入

ギャラリー6
休館中に収蔵した作品から、1980年代と2010年代の現代アートを中心に展示。

福田美蘭(1963-)《水曜日》1988
アクリル絵具、合板に貼付 けた綿布、紙
横浜美術館
…嗚呼、80年代!

じゆうエリア[ギャラリー8・入場無料]
「ひっくり返す・ひっくり返る」
最近気になっている柄澤齊があった!
浦島太郎、アフロディテ、ミノタウルス(鬼の念仏か?)、雪姫、酒呑童子と、今まで見てきたのよりだいぶ可愛らしい。
和と洋?が混ざった不思議な絵。

柄澤齊(1950-)《浦島太郎(版画集『ZIPANGU』9)》1999 木口版画
横浜美術館(新収蔵)

じゆうエリア[ギャラリー8・入場無料]
「ガラスとひかり」
光がいっぱい入る展示室を生かしたガラス作品の展示。

スタニスラフ・リベンスキー(1921-2002)
ヤロスラヴァ・ブリフトヴァ (1924-2022)
《アーチ雲》1991 ガラス、鋳造
横浜美術館

余談
私が横浜美術館で一番好きな作品はクレス・オルデンバーグ(1929-2020)《反転Q》なのだが、今まで撮影OKだったと思うのだけど、撮影不可になっていた。
この写真は全体だからOKだと思うのだが、中央やや右の黒いツヤツヤしたスライムみたいなのがそうです。
黒いボディに映り込む天井が美しくて見飽きない。



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