「水害に強い」立地を考える(前編)
先日、ロンロ・ボナペティさんの
こちらの記事を拝見しました。
この記事では、施主と建築家、そして不動産の専門家が連携することより、より良い建築が創造される可能性について、強く示唆されていました。
不動産…つまり立地ということであれば、現在の周辺環境の評価はもちろん、その土地の履歴などの要素も重要だと思います。
考えれば、古今東西その建築をどこにつくるのかについて、人々は頭を悩ませてきました。
古代の都市や村落については、当時の価値観に基づいて、立地について悩み抜いた跡が見て取れます。
例えば京都などの古都については陰陽道
の思想が強く影響していますし、その感覚は江戸の町づくりにも強く反映されています。
例えば比叡山延暦寺と上野寛永寺は、それぞれの町の「鬼門」封じです。
※鬼門とは
北東(艮=うしとら:丑と寅の間)の方位のことである。陰陽道では、鬼が出入りする方角であるとして、万事に忌むべき方角としている。
(Wikipediaより)
もっとも、現在家を建てるにあたって陰陽道などを強く気にする人は少ないのかな?とも思います。
しかし、水回りや玄関を北東方向に作らないなど、その名残は見て取れます。
では、現実問題として、ここまで災害が頻発するご時世で気になることは何か。
おそらく多くの方が、「この土地は災害に強いのか、弱いのか」を気にすると思います。
特に2018年7月の西日本豪雨
など、非常に大きな水害が頻発する時代では、やはり水害に対する懸念が強い方が多いと思うのです。
そこでこの記事では、どのような土地が水害に強いのか(町の立地に適するか)、最終的には「堤防のことは加味せずに」考えてみたいと思います。
日本の河川の特徴と治水・利水
日本は、古来から水害が多い土地柄です。
世界平均から見ても降水量が多く、地形は山地が多い。
そうなれば、川の流れが急で激しくなります。
日本の川がどれくらい急かを表したこんな図
を見たことがある人もいらっしゃるのではないでしょうか?
(社会科の教科書によく載っています)
さらに、日本の川は水源地から海までの距離が短いため、降った雨がそのまま一気に海に向かって流れ下っていきます。
そのことから、最大流量(増水時)と最小流量(渇水時)の差(「河況係数」といいます)が極めて大きいことも特徴です。
実際に明治時代に日本に招かれた「お雇い外国人」、の一人、土木工学専門のオランダ人であるヨハニス・デ・レーケ
は、日本の川を見て
「これは川ではない、滝だ」
と呟いたと言われています。
ちなみに彼は、日本滞在中にも数々の河川改修や砂防に関わり、治水・治山において多大な功績を遺した土木史の偉人です。
これらの特徴から、日本の川は雨が降ると周辺から水が一気に流れ込み、猛烈な勢いで水位が上昇、なおかつそれが激流となって下流に向かって流れ下っていきます。
逆に、流域面積(その川が水を集める事ができる範囲=川の持つ縄張り)が大きい川(アマゾン川など)や、総延長が長い川(ナイル川など)は降った雨をゆっくり海に向かって放出することができるので、雨が降った後、短時間で一気に増水することは稀です。
そんな日本の近現代の治水は、
最大時の水流を、堤防により水路内にとどめる
ことで水害を防止しています。
そのためには、
堤防の強固な構造により、激流の持つ位置・運動エネルギーを封じる
必要があります。
この発想で、起こりうる増水の最大値を「200年に1度起きうる豪雨(200年確率)」に設定し、作られたのが「高規格堤防(スーパー堤防)」
です。(上が従来型、下が高規格堤防)
もっとも、日本で高規格堤防を整備するとなれば、400年の時間と12兆円を超える費用が必要とされていますし、河川流域の住宅地はかなりの変化を余儀なくされますから、全国的な整備はあまり現実的とは言えません。
一方、この「最大時の水量」を抑制することが任務の一つになっているのが「ダム」
です。
ダムは、上流域で水を貯めることにより
降水時の最大流量を抑える(治水)
いつでも水が不足しないように調整する(利水)
の2つの役割を担っています。
(黒部のように、発電専用のダムもありますが)
ダムが正常に機能していれば、流量を調整して堤防が破壊される(破堤)事態をかなりの確率で防ぐことができます。
(先日の岡山県での大水害は、ダムや堤防の設計想定を超える雨が降ったこと、加えてダムの流量調整のまずさが原因と指摘されています)
ちなみに、日本で最初に作られたダムは大阪府にある狭山池
で、7世紀前半頃に建設されたと考えられています。意外に古い…。
ただ、主な役割はため池(利水)なので、洪水防御の機能はあまり考えていないと思われます。
では、現在のような流量調整の機能を持つダムができる以前は、堤防以外に洪水を防ぐ機能はなかったのか…。
実はかつて、日本の場合は水田地帯
がダムの役割を担っていました。
水田は、田植え以降稲刈りまでの間、大量の水を張ってます。
この時期は、日本における降水量が多い時期におよそ一致しています。
つまり、水田が水を大量に貯めることで、川の流量を調整する役割を担っていたのです。
しかし現在は、その役割を上流のダムが代行していると考えて良いでしょう。
また、ダムを建設したことにより利水についても飛躍的な進歩がありました。
現在、日本のほとんどの地域では、浄水場を経由して安定した上水が供給されています。
現在、施設を造る際に、水の入手性を考慮する必要はほぼありません。
さらに、モータリゼーション(自動車社会化)の進展は、移動の利便性を高め、都市はどこまでも、どこにでも拡大することが可能になります。
加えて、コメ余りによる減反により、そもそも水田は削減される傾向にあります。
この、「水の入手性の向上」と「減反」「モータリゼーション」が無秩序な都市の拡大(「スプロール現象」といいます)を後押ししているのが現状です。
水田が次々と転用されているのはそういった背景があります。
しかし、よく考えれば水田というのはどういう場所かというと…
川から水を取り込みうる場所(低地)
なおかつ
細かい砂や粘土で形成された土地
です。もう少し言い換えると
低地(水が流れ込みやすい場所)
湿地(水はけか悪い場所)
ですね。
裏を返せば、
一度浸水した場合、容易に排水できない
砂地なので地震時には液状化しやすい
などのリスクを抱えた場所でもあります。
これらのことから、堤防などの洪水防御を考えない場合、水田地帯というのは極めて水害に弱い場所であることがお分かりいただけるかと思います。
これは、もし破堤など、洪水防御施設が機能しなくなった場合、浸水しやすくその影響が長期間残りやすい場所であることも意味しています。
そのことをよく理解している昔の人々は、水田地帯と集落をつくる場所を分けることで、水害に対する防衛を意識していました。
では、集落をつくった場所とはどこなのか…。
次回は、「地形」という観点から、集落の立地はどのような場所であるか、現在、そのような場所を地図上で見分ける方法はないのか…などについて触れていきたいと思います。
ちょっと中途半端ですみません…。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
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