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海帝(著:星野之宣:2021年完結)【海の向こうで限りなく海色に近いマンガ感想がはじまる】

大御所マンガ家さんの作品。
この人は有名なのに、著書を読むのは意外と読むのは初めてだったりします。SFが有名みたいですが、私が読んだのはこれ。
世界史に出てくる明の鄭和の物語。
歴史マンガです。

モンゴルをついに打倒して中国人は明王朝を創始するのですが、
初代洪武帝がなかなかの暴君でした。

しかもその後、孫の第2代建文帝が即位するのですが、
洪武帝の第4子つまり叔父が反乱を起こします。

叔父さんは内戦に勝利し第3代永楽帝になりますが、
甥が皇帝だったことを記録抹殺刑によってなかったことにしてしまう!
すでに闇です!

鄭和はそんな時代に永楽帝に仕えた官僚です。
作中では永楽帝も、もれなくスターリン級の暴君です。
少しでも疑念を持たれたら即処刑されてしまいますが、
しかし鄭和は明朗快活、男気溢れる性格で、
なぜか永楽帝は鄭和については信用しています。

陰湿な宮廷においての一陣の清涼となっております。

そして、南海への大船団を派遣する際の司令官に任命されるのですね。
この時代の役職だと司令監と監の字が違っております。

しかもこの人、宦官なのです。
宦官と言えば、去勢した男性で、不倫することがないので後宮に出入りすることができる存在です。
アケメネス朝からオスマン朝まで西にも存在しました。
なんとなくなよなよとして、陰謀を企んでいるイメージで、
王朝の土台にひびを入れる悪、というイメージが多いですが。
(最も悪名高いのが秦の趙高かな?秦が滅亡したのは9割こいつのせい)

鄭和にはそういう暗さはなく、というか戦士であり、暗殺者がきても自分で撃破してしまうくらいの戦う男なのです。

日本の室町幕府を親善外交で訪れたときにも、暗殺者に股間を蹴り上げる必殺技をくらいますが、これが通じません(そりゃそうだ)
「な、なんだこいつ!?」と気がついたらその暗殺者=少年は捕縛され、以降は語り手のひとりとして主人公「鄭和」のそばに居続ける役となります。

少年は九州の海賊出身であり、いろいろあってその海賊を心服させた鄭和は、海賊集団を自分の麾下として引き入れて明に帰国します。

こんな英雄の鄭和ですが、実は生い立ちには暗いものがあります。
ネタバレはほどほどにしますが、鄭和は中国のイスラム系民族出身の少年でした。
元が連れてきて移住させたのです。
今も昔もそうですが、漢人が権力を取り戻すと、まあ弾圧します。
鄭和にとって永楽帝は実は親の仇です。
なぜか鄭和だけを生かしたので、鄭和は永楽帝の軍団で大人になってこいつを倒す!という執念のもとに生きてきました。
しかしある戦いで気が変わり、永楽帝を助けます。
永楽帝は「俺を殺すチャンスだったのに助けるとは、こいつは何か違う」
と思って鄭和を側近にしたようです。

というのが星野之宣のシナリオですが、
実はこの辺はよくわかってないので、作家によって違います。
陳舜臣の中国史だと、建文帝側にスパイとして潜り込むために自ら宮刑を受け、宦官になった、それが永楽帝に評価されたとなっています。
ウィキに書かれた話だと、星野先生側の方がリアリティとしてはありそうです。

鄭和がなぜ親の仇を許したのか。
それは世界の果てを見たかったから、そんな理由のせいです。
復讐を遂げても狭い世界のままで終わりですが、広い世界を提示されて、悪魔の誘惑に屈したとでもいいましょうか。
しかし根が陽キャとでも言うのか、これが作品全体を通じて明るい雰囲気をもたらしています。
陰湿さこそ鄭和にもっとも似合わない言葉でしょう。
火者は男とは呼ばれないのかもしれませんが、まさに男の中の男。

ちなみに永楽帝は上記のように鄭和を評価しつつも、明王朝は秘密警察国家なので、どのような高官であっても、反逆を恐れて監視がつけられます。

また政敵からの暗殺者や内通している裏切り者、次から次へと出てきます。
実は鄭和にもまったく角がないわけではなく、実は皇帝の命に反してある人物をかくまっていたりします。
さらに外国に派遣されれば、その地で内戦に巻き込まれたり、さらに明そのものを敵視する勢力と戦闘になったりします。
(欧州勢はまだいませんが、イスラム勢力は健在です)
中世にしか存在しない秘密兵器をお互いに使ってくるのは、ほとんどSF仮想戦記のような展開です。

そんなこんなで、血沸き肉躍る11巻となっております。
どうせ世界史の勉強するなら、こういうの読んだ方がいいに決まってると私は思うのですが。

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