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白狐

長女と私は神の遣いを眷属と呼んでいる。
眷属達も『眷属』という敬称で伝わるのでそうしている。

長女が初めて眷属が見えた瞬間、それはスーパーでの買い物中。
それも業務スーパー。
あれこれ品物をみていたら、長女が商品棚の上を目を丸くして凝視していた。
「え!え!?白狐!?え!?」
驚きのあまり興奮したのか耳まで赤くなっていた。
『やっとか…』と、その時白狐が言ったらしく
「え?え?やっとかって言った…え!?」
その様子に私も驚いて、変なものが着いてきてしまったのかと心配になったが、
人の多い店内で慌てふためくわけにもいかないので
まずは買い物を済ませてしまう事に。
すると
「…やっぱり!お母さんに着いて行ってるよ?」
と長女が言う。
瞬間、思い浮かぶものがあったが、すぐにかき消して早々に買い物を済ます。
車へ行くと、白狐もルーフの上に飛び乗りシャンとお座りした様で、その様子に長女はそれこそ狐につままれたような顔をしていた。
そういった話に疎い夫が運転しているので、車内では白狐の話はせず、
家で荷物と私達を降ろし用事へ夫が向かった後、白狐との対話が始まった。

家に入るなり、白狐は元旦の初詣の露店で私が気に入って買った張り子の招き猫の中へ入った。
「えぇっ!中入ったよ?」
と長女。
何となく、そんな気が私はしていた。
きっとこの張り子は、白狐が選んだに違いない…
あの時、もっと大きいのを買おうとして娘達に止められた。
抱き抱えると収まりが良い大きさの為か、次女がいたく気に入ってご飯をあげていた。
なるほど、依代を買わされたのか…。
しかも我が家のアイドル的存在になっていたもんだから何だか納得してしまった。
「どうやら眷属みたい…。」
長女が白狐と話しているようで、頭の中を整理しつつ言葉にし始める。
「あそこ、○○稲荷の左側の狛狐に入ってたみたい…あのおじいさんの宮司さんについてたってゆーか…あ、あの神社の眷属だったって…」
やっぱりな…!と私は思った。

あれは前の年、私の父方の伯父が亡くなり伯父の嫁と高齢の祖母の折り合いが悪かった為、叔母が祖母を引き取り伯父の嫁も家を出る事になり
昭和9年からあった祖父母の家を解体する決断にいたった。
祖父は若い頃、宮大工もしていた為か近隣の神社やお寺さんとの親交もあり、
朝は家族の中で最初に起きてまず神棚にお参りする、そういう人だった。
そんな祖父が20年前に亡くなった後、祖父の家で祖父の信仰心を継ぐ者はなく、せめて神棚だけはきちんとやってね!と常々頼んでいた。
家を解体する前に何か持って行きなと祖母や叔母に言われ、私は地元に帰省した。
目的は思い出の品ではなく、お世話になった神社やお寺にご挨拶に伺う事だった。
きっと祖父なら何よりそれを願っているだろうと思えてならなかった。
そうやって神社やお寺を参拝した最後が○○稲荷。
このお稲荷さんは祖父母の家に程近い海岸淵にある。

今でも祖母や叔母が会う度に私の3歳の時の迷子事件の話をする。
祖父母の家から海岸までは約500〜800メートル程の距離があり、海岸までは交通量の多い道路を2つ程越えていかねばならない。
祖父母の家で姿が見えなかった3歳の私は、なんとその海岸で見つかった。
その時の記憶は私には無いものの、3歳の子供がよくもあんなところまで一人で行ったもんだ!と笑い話になる度、私は内心お稲荷さんが守ってくれたに違いないと思っていた。
今、子を持つ親になって余計にわかるのだが、祖父母の家から海岸まで3歳の子供が無事に辿り着くとは到底思えない道のりなのだ。

そんな○○お稲荷さんへ参拝へ伺った時、境内では若い男性二人が猫の写真を撮っていた。
白黒のハチワレの猫は、このお稲荷さんに住み着く野良猫なのか人が苦手な様で、逃げ続けるハチワレ猫にとうとうお兄さん達も諦めて帰っていった。
拝殿や末社に参拝を終え、社務所でおじいさんの宮司さんにご挨拶した。
△家の孫です、解体する事になりました、お世話になりました、といった旨を伝え雑談をし宮司さんのあったかさに涙を滲ませつつ社務所を出る。
目に入った朱色のほっかむりをした狛狐さんの顔がまるで笑った猫のようで、なんだか可愛らしいね♪と、近付いて行くと
左側の狛狐さんの脇からヒョイとハチワレの猫が顔を出した。
さっきお兄さん達から逃げていた猫だ。
そのハチワレ猫はしゃがみ込んだ私の足に体をこすりつけ、しまいにお腹を出してにゃ〜と甘えた。
長女にも同じように甘えるので、
きっと男の人が苦手だったんだね!と、しばらく撫で続けた。
「今度来る時はオヤツ持って来るからね!」と
私達はそこでご挨拶まわりの参拝を終えた。

「あの猫ちゃんは相方だったみたいよ…右側の子がこのコを宜しくね!て挨拶してたみたい…」
長女が言った。
やっぱりか…と私は内心驚くどころか納得しかなかった。

白狐さんと呼ぶのは呼びづらいので、私は百太郎と呼んで良いかと尋ねた。
私のうしろを着いてきていたので、百太郎。
通称、百。
百はもちろん良いと頷いた。

ここからは簡潔に説明すると
私とは私の前世と言うのか過去世と言うのかはわからないが、
とにかく死に際に出会い約束したらしい。
百が見える様に長女の見える回路をいじり、百もまたそのチューニング(周波数?)に自分を合わせたらしい。
試しに私の回路もいじってみたが、やはり感覚派だからダメだったらしい。
神様も眷属も本来人に気付かれないように見えないように存在するものだから、元々幽霊などが見える人でも見えるようにするのはなかなか大変らしい。
その為、長女が初めて百が見えた瞬間の百のセリフが『やっとか…』だった模様。

そんな百との出会いから、長女の見えない世界は一気に広がっていった。

※細々とした事はInstagramに載せてます♪



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