8月のスタンゲッツ
今年の暑さはひどい。
新宿の地下のバーでは、
エアコンが低くうなっていた。
マスターは蝶ネクタイをほどいて、
言った。
「こんなに暑くちゃあ、商売あがったりだよ」
カウンターだけの店で、
客は私ともうひとり、
少し離れて座っていた。
ぽつりと言いだした。
「マスター熱いだけじゃないで、電気代も・・」
マスターが手で次のことばを制した。
「考えたくもない、やめてくれ」
無理もない、と思った。
「悪かった、ついさっきまで東北で取材していたんだ」
客がまた、話し始めた。
「大きな風力発電の計画を市民と議会で止めたらしい」
「それを、取材してきたのさ」
「だけど、ソースにはならいかも」
ポツンと言い放ち、出て行った。
メガソーラーなどの乱開発が社会問題になってきた。
突然、地方の山々をメガソーラーが覆う風景が増えてきたが、
報道され始めてきたのは最近だ。
静かになった店ではスタンゲッツの
サキソフォンがクールにうなっていた。