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Photo by
okanokura
奇談 善知鳥(うとう)
日本の伝統芸能、能。
その中に『善知鳥』という話がある。
鳥を殺生して地獄に落ちた猟師の霊が、
旅の僧に自分のことを故郷の家族に伝えてほしいと託す。
実は、劇中の場所は自分の故郷。
今でも善知鳥神社や地名が残る。
残念ながら、もう風情のある場所ではなくなっている。
有名な能とは違う自作、
奇談『善知鳥』です。
ここは都から遠く離れた、みちのく
外が浜。
海辺に灯が見える。
浜に流れ着いた枯枝を老婆が
燃やしている。
そこへ、
旅の僧が通りかかる。
「こちらにきて温まってください、
お坊さま。」
老婆が話しかけると僧は誘いを受けて
一緒に火にあたる。
二人は焚き火に向かい合いながら
ひとことふたこと
話し始める。
私には猟師の夫がいたが、
もう、いない。
亡くなったのだと
そして、僧にこんなさびしいところに
よく来てくれたと
伝えた。
老婆は炎を見つめながら
また、話しはじめた。
ある日、
夫は、いつも通り猟に行って帰ってきた。
どうも、顔色がよくない。
「何かあったの?」
「善知鳥の子供を捕まえたが、遠くで親鳥が悲しそうに鳴き続けていた。」
そう話すと、夫は早々に寝てしまう。
夫は夜中に突然起きたかと思うと、
海に向かって走りだした。
そして、
海に入ると見えなくなってしまった。
老婆が言った、「あの浜辺の先。」
僧はその場所を見るが、
宵闇の中、よく見えなかった。
「よく見えない。」
僧は振り返り老婆に話した。
どういうわけか、
老婆が消えていた。
そして、焚き火もなくなっていた。
かわりに、
小さな祠が
ぼつんとあるだけだった。
僧はひと息ついて、
その場を去った。
砂浜には枯れた枝が残るのみ。