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10代の進路

 図書館の二階の窓からは、日常で埋め尽くされた町並みが見える。夏のケヤキ並木は、ただ青々としているだけで、そこに在ることを主張しない。商店街には、見慣れたのぼり旗が年中セールを連呼しているが、誰も見向きもしない。シャッターが降りたままの店も混じる閑散とした商店街を、犬の散歩をした老人が歩いている。灰色の厚ぼったい瓦屋根に駐車場付きの庭。それから低い建物。ありふれた風景が広がっている。この町はずっと変わらない。

 女性がやりがいをもって一生できる仕事などないのだ。あるのは、区役所の窓口の仕事に、スーパーのレジ打ちやバックヤード、それから学校や図書館の仕事。どれも昔から変わらずあり続ける仕事ばかりで、自由がない。決められたことを、決められたようにすることが求められる仕事しかないのだ。この町には勿論、大学もない。さらに学ぼうとするならば迷わず町を出て行くことになる。そして大学に進学した先に待っているのは、都会での就職。そうして町は、活性化することなく、発展しないループが無限に繰り返され、十年後も二十年後もそこに同じようにあり続けていく。

 この図書館も何十年も前から同じようにここにあり続けている。蔵書にはまだ昭和の年号が記されたかび臭いものまで置かれている。この本棚のように古いものが古いまま残されて、新しい本が埋もれてしまっているのがこの町なのかもしれない。

 私は、二十年後の自分がスーパーのレジ打ちをしている姿を想像して、ぞっとした。絶対にこの町に残りたくない。この町にいたら、自分らしさなんてどこかに消えてしまうだろう。(中略)

 高校卒業と同時にこの町を出て大学に進学し、自分のやりたいことを叶えたい。母のようになりたくないのだ。自分の不幸を環境や誰かのせいにして、薄幸そうな表情を浮かべている。写真に写る母の顔は、いつもくすんで見えた。

【小説】「コールドムーン」第1話より

変わっていく私


林 凛香


少し前まで私はこの町がキライだった
ありふれた風景が広がっている
ずっと変わらない 町



発展しないループが無限に繰り返され
十年後も二十年後も
そこに同じようにあり続けていくようで
こわかった


この町を出たいと思っていた



母のことがキライなのと同じように
この町がキライだった


だけど今は 違う


うちみたいな
ひとり親家庭をサポートする仕事を
この町でしたい



遠く離れたアフリカの地ではなく
この町で誰かをサポートすることが
意味のあることに思えてきたから・・・



いよいよ12月15日(日)コールドムーンの日に、最終話投稿となります。
お読みくださってありがとうございます💗
感想もありがとうございます。
途中読み用のあらすじ付きです。✨


さっとんさんの素敵なお写真を使わせて頂きありがとうございます。

Kenji Nさんのエミール・フォン・ザウアー 夕べの歌をリンクさせて頂きありがとうございます。