鏡獅子(紀尾井小ホール)
紀尾井小ホールは、国立劇場再建のめどがたっていない今ではたいへん貴重な古典芸能専門の小ホールです。客席が11列しかなく、舞台の上の緊張が客席で見ているこちらにまで伝わってくるようなコンパクトな空間。音響が素晴らしくて一番後ろの列でも舞台上のかすかな音も聞こえます。2025年8月から約1年4か月のリニューアル工事期間に入るそうで、伝統芸能の会ができる場所がまたひとつ、しばらく消えてしまうのは寂しいです。
個人的に紀尾井では、出ている人も見に来ている人も知り合いばかりの会が多く(汗)いつ誰に話しかけられるかわからないし、挨拶したくないけどしなきゃいけないかな…というプレッシャーがあって休憩中も気が抜けません。なるべく気配を消して、うろうろしないようにしています。
そんなふうに気配を消して見てきたのが、早稲田の演博館長・児玉竜一先生の解説つきの長唄「鏡獅子」の演奏会です。
歌舞伎好きな方でも長唄の演奏会に行く方は少ないと思うのですが、舞踊の伴奏をすることと演奏を聞かせることは、似ているようで違うことだと思います。踊りがないときにしかできない演奏っていうものがあるのです。踊っている人の動きに合わせる必要がないから、曲がもともと曲として持っている緩急をそのまま出せるというか…。私は別物として楽しんでいます。
今回の演奏の感想は、狂いが速かった!もし舞踊つきだったら毛が振れないくらい速かった(笑)唄・三味線・お囃子含め、何十年も組んでいる”いつメン”の皆様が息もぴったりでした。
演奏の前に30分くらい児玉先生の解説がありました。『鏡獅子』は、九代目團十郎が、自分の娘が『枕獅子』という曲をお稽古しているのを見て考えついたそうです。傾城が獅子に変わるという元のストーリーを、将軍に仕える御小姓が獅子に変わるっていう風にアレンジして高尚にしたのです。初演時はそれほど評判にはならなかったのですが六代目菊五郎が踊ったのがきっかけで大人気となりました。詞章のどこをどう変えたかなどもスライドを使って詳しく説明してくださり、内容も興味深かったんですが先生の冷静なツッコミの混じった淡々とした話しぶりが面白かったです。
客席には渡辺保先生も見に来ていらっしゃいました。私は遥か昔の大学時代に渡辺先生の授業を受けていて、その授業は六代目の鏡獅子の記録映画と現代の役者の演じる鏡獅子の映像を比較して”名人の芸”を解説するという内容でした。そのとき、最初は富十郎丈の映像と比較していたんですが、うますぎて対比がよくわからないということで、途中から勘三郎丈の映像に変更されたのを覚えています(爆)
もう社会人になって久しく、授業を受けるなんてことはなくなってしまっていましたが、この講座つき演奏会に参加して、鑑賞力を高めるために学ぶのって楽しいなと改めて思いました。