大阪たこ焼き恋慕情
あれは高1の夏祭りの日だった
内気で引っ込み思案な僕は珍しく祭りに行った
夜の参道では沢山の出店があって
ひときわ大きな声で客を呼び込むたこ焼き屋
僕はこのお店の前から離れられなくなった…。
あれから数年…やっとの思いで開業した
「僕のたこ焼き屋」。
頑張って売るぞー!
と頑張って早数年…32歳に成りました。
ちなみに年齢=彼女いない歴です。
内気な正確のせいか、話下手で
それを直そうと出店のたこ焼き屋にバイトで入り
大きな声で客を呼んだり
「へい、イラッシャイ!」
「毎度、おおきに!」は
言えるようになったんだけどな〜
僕の店は大阪の繁華街のはずれ
オフィスビルや住宅街もすぐ近くで観光客目的の店ではなく、仕事のおやつに、今夜のおかずにと、一般的な人向けの店になってる。
店内で食べれるように少人数用のテーブルと椅子もある。
道頓堀に行けば「大だこ」という有名な店があり、名前の通り、タコが大きいのが売り。
過去に味の勉強がしたくて「素焼き」を注文したら、「できません。」といわれたことがある。
粘って説得したおかげで、誰も食べたことはないであろう、大だこの素焼きを食べたのだ。
味は…コレが美味い!出汁が効いてる!なんでメニューにないのか不思議に思う。
僕の店は、「安さ」が売り。そのかわり利益ないけど。
店の立て看板には「タコが高騰しております。でも皆さんには安く楽しんでもらいたいので、僕の店はタコを小さくさせてください!」と正直に書いたら、これがウケてお客さんも小学生〜大学生が少し増えた。
メニューも「素焼き」と「ソース」のみ。
ソースはHERMES(ヘルメス)ソース。
おたふくソースと言う定番のソースもあるが、あえてサラッとしたソースにした。
最近はチーズを入れたり餅を入れたり、明太子まで…そんなものを作らなくても、どちらもよく売れているから別のメニューを出さなくていいのだ。
朝9時に出勤。
生地にはカツオとこんぶと煮干しを使った出汁を使う。出汁のにおいが店の中に充満する。
小麦粉に山芋のすりおろしたものと卵を入れるわけなんだけど、店では、黄身6、白身4と黄身が多い設定。なんでかは起業秘密。
10時半、店を開ける準備をする。
「毎度〜!」と近くの店の店主が自転車に乗りながら挨拶してくる。
「毎度〜!もうかってまっか?」
「ぼちぼちでんな~」
これ、本当に言うんですよ。
11時に火入れを始め、鉄板を焼いていく
すると、この店がオープンしたときから通ってくれているおばあちゃんが押し車を押しながらやってきた。
「兄ちゃん、おはよう」
「おばちゃんも元気そうやな!」
「もう棺桶に片足つっこんどんがな!」
「その割には、なかなか死なんな〜」
「なんでやねん!死ぬかいな!」
「いつものでええか?」
「ああ、頼むわ!」
8個入り300円、朝はこれから始まる。
熱した鉄板に生地を流し込む。
ジュワ〜と心地よい音と湯気と共に生地の焼ける匂いがあふれる。
「いつ来ても、ええ匂いやな〜」
「せやろ?オリジナルブレンドやからな!」
「ウチにも教えて〜な」
「アカン、買いに来て!」
「ほんま兄ちゃんイケズやな!そんなんやからモテへんのやで!」
笑いながら、ばあちゃんが言う。
実はばあちゃんは一人暮らしで、
毎日買いに来てと言っているのは「生存確認」でもある。僕が勝手にやってる事やけど。
たこ焼きピックを両手に持ち、あれよあれよと丸くなって、たこ焼きが出来上がってくる。
舟と呼ばれる木でできた器に乗せ、ソース、青のり、粉状のカツオ節をかけて出来上がり!ばあちゃんのいつものメニュー。
「これ、これやがな、たこ焼きっちゅ〜もんは!」ばあちゃんが嬉しそうに目を細めてる。
「また来るで〜」
「おおきに!」
11時を過ぎるとチラホラとお客さんがやって来て、お昼に向けて一気に忙しくなる。
頭にタオルを巻いてないと、汗が滴り落ちるほど、鉄板から熱気が暑い。
午後3時…ようやく一息。
夕方までは暇な時間
いつも来るお客さん、けーへんな…(来ないな)
近くの会社で働いているのだろう、その彼女はモデルでもしているのか、身長が高くホッソリとして、爽やかな晴れた日の頬を撫でる風のような、優しい顔立ち。年齢は25〜7ぐらい?あまりの可愛さにチラチラと見てると目があって、思わず顔をそむけてしまう。その度に彼女はクスクス笑う…情けない。
でも、今日こそは告白するんだ!と拳を握りしめ試合前のサッカー選手のように決意を胸に目を閉じる。
「あの〜すみません」
どこからか女性の声が聞こえる。
僕はまだ自分の世界にいる状態。
「あ・の!スミマセン!」
ハッ!我に返ると目の前に彼女が立っていた。
「はぁ〜…天使がいりゅ〜」
「え?なんですか?」
「いえいえ、こちらの話です。」(キモかった?)
「いつものください♡」
「あいよ!よろこんで!」
コンロに火を入れる。
実はわざとコンロの火は消して鉄板を冷やしている。
そうすることで少しでも長い時間、彼女の姿が見れるから。
「椅子に座って待っててくださいね。」
「ハイ、ありがとうございます♡」彼女が微笑む。
か、カワイイ…
これ以上の会話スキルがないんです!僕は!
いつも見てるだけ…でも今日こそは!
実は冷蔵庫には通常とは別に大きく切ったタコがある。
彼女が以前に「大きなタコが入っていて、とっても美味しかったです♡」と言ってくれたからだ。
もちろん、他の客には出してない。
彼女専用なのだ!
今日も「彼女専用タコ」投入!
「あ、あの…」
「はい?」
「も、もうすぐ焼けるんで、もうチョット待っててくださいね。」
「はい♡」
ニコッと笑いながら答える彼女もカワイイな〜
イヤイヤイヤイヤ、告白するんや!
世間話やなく、いや、なってへんけど、告白するんや!
「あっ、あの…」
「はい?」微笑む彼女
「…」
「な、なんでもないでしゅ!」
あっ、噛んだ。
本当に焼けてしまった…
今回も言えなかった…
情けない…
でも、逆転の必殺技が僕にはある!
マヨネーズで「すき」と書こう…
…僕はメイドか?メイドなのか?
美味しくな〜れ、萌々キュン♡すればいいのか?
緊張のせいか文字がビビってる。
「は、はいお待ち!」
「ありがとうございます♡」
僕の焼いた、たこ焼きを食べてる…
シアワセ…
そう幸せに浸っていると
食べ終わった彼女が言った。
「私も好きですよ♡」
「えっ?」ゴクリとつばを飲む。
キター!やっと僕にも春が来たんやー!
ひとりで盛り上がっている時に彼女が言う。
「たこ焼きが♡」
「あ、明日もまた来てくださいね…」(泣きそう)
「はい♡さよなら〜」
彼女の後ろ姿にガックリと肩を落としながら手を振る僕…終わった…情けない
それから数年後…
「たこ焼き3つね〜」
「あいよ!」
「それにしても、たこ焼きから始まる恋な〜」
「うっさいな〜買わんのやったら、どっか行け!」
「ええやないか?で、なんて告白されたん?」
「なんでしょ〜?」
たこ焼きのソースの匂いと鉄板で暑い店内で
元・彼女が言った。
「今日のおやつはたこ焼きがいいなぁ〜」
「いつも食べてるやん?」
「私スペシャルで♡」
「あいよ!よろこんで!」
ー完ー
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