北の伏魔殿 ケースⅠ-番外編1
○施策立案できない職員は知ったかぶりで生き抜くしかない
団体派遣から本庁の出身部である商工労働関係部に戻ってきた私は、経済交流を担当する課に配置された。以前、事務所直営の際に私を「県に戻すから」と言ってくれた人事担当の課長補佐は、私の得意分野、興味のある分野を把握しており、適材適所の観点からその課に配置してくれた。
私は、初めての担当業務であり、しかもどちらかと言えば、自由裁量があって好きなイベントの多い業務であったことから、仕事を覚えながら楽しく過ごしていた。
1年経過すると前課からH課長補佐とN主査が異動してきた。前課では、課長とH課長補佐の2人だけが私に謝罪したが、私は私に対して業務で報復した人間に謝罪を求めたかっただけで、H課長補佐にはもうわだかまりはなかった。
N主査に関しては、以前のエピソードでも書いたが、なかなか面白い性格、能力だと言うことが同僚として勤務してわかった。
あるとき、彼を含め、主査、係長6名全員が残業で残っていたときに、
イラン・イラク戦争が勃発したため、県内の輸出入に影響はないかとの観点でTV局から照会があった。
県内で輸入が多かった歴精油について「これはどういうものか」のと問い合わせで、電話を受けた私は歴精油が何かは、おおまかには知っていたがマスコミ相手に不確かな情報を入れたくないと思い、課内主査向けてに「誰か歴精油が何か知っている?」と聞くが誰も答えない。
仕方がないので、私が知っている範囲で話すと別の主査が辞書で調べてくれて私が答えたとおりで間違いなかった。電話を切った途端N主査は「そうなんだ、歴精油ってそういうものなんだ」と言い始めたが、主査全員彼がそのことを知っていたなどとは誰も思わず、しらーとして誰も相手にせず黙っていた。
O主査が課長に担当の業務内容を説明しているとなんら関係のないN主査が突如として割り込んできて、自分の業務でもないのに知識を披露している。課長は困惑顔で、O主査も憤懣やる方ない顔なのだが滔々と持論を展開するのに酔っている。
外国からの賓客が三本足で酒の器の形をしたお土産をくれた。H補佐から「これはなんだ」と聞かれたので私は「(酒器の形のみのは見たことがないが、三本足なので)鼎じゃないかと思います」と断定せずに答えた。
するとN主査は、5分もたってからH補佐のもとにきて、「ああ、それは鼎なんです」と言い始めた。おそらく私が鼎と言ったのでネットで調べたのだろう。
彼は、県外私大の出身で上級職であるることが自慢なのだが、ことあるごとに私のことを高卒と馬鹿にするような人間だった。周囲の人間から知識が豊富だと言われるのが生きがいのようで、知ったかぶりをしてあちこちにささろうとしいる。多くの職員は知ったかぶりだと知っているが、たまに見抜けない人間は、知識が豊富と評価するものもいる。
そこで、本当に彼に知識があるか確認するため、「鼎談てなんて読むの」と聞くと「ていだん」と答えることができた。「じゃ、意味は」と聞くと答えられない。そのため高卒初級の私が大卒上級の彼に「3人で会談することを鼎談っていうんだ。鼎の足が三本から来ているんだけど、それを知らなければ、あの酒器が鼎だとはわからないはずだけど」と言うとなんにも答えられず、しったかぶりだということが判明した。単に性格がしったかぶりなだけはどうでもいいが、こういう人間は職務に影響を及ぼす。