品田遊『止まりだしたら走らない』感想

 ちょっと前に買っていた品田遊先生の『止まりだしたら走らない』,ちまちま読み進めてさっき終わったので若干のネタバレを含んだ感想書きます.

 この本ではJR中央線(東京の方)に乗車する人々それぞれのエピソードを東京→高尾,つまり下り順に短編集的に連ねていくかたちを取っている.このような形式の本は読んだことがなかったので新鮮だった.個々のエピソードの解像度の高さに驚きつつも共感し,その合間に断続的に挟まってくる東京から高尾まで乗り続ける2人の学生の会話を盗み聞き気分で楽しむ…彼らの日常の一片に引き込まれ,また何回でも読み直したくなる1冊でした.

 本が先か,著者が先か.本を読むにあたってこの順序が読んだ時の感想に大きく関係してくると思う.本作の品田遊先生はWebメディアオモコロのライターとしても活躍しているダ・ヴィンチ・恐山さんであり,3年程ではあるがオモコロを愛読している私にとってはこちらの方が記事やラジオ,YouTubeチャンネルなどでよく拝見しているといっていい.

 読者・視聴者の視点から見ると,特に動画では理性の塊みたいな感じを出しつつ実際は要領がめちゃくちゃ悪かったりあたふたしてたりとスマートさが皆無という印象がかなり強い.こうした著者の内面…とはいかずとも「著者」以外の顔をある程度知っている(というのもおこがましい.私はオモコロの一読者でしかないから…)自分からするとこの本の内容は著者に対する所謂ギャップ萌えであり,あの人がこんな繊細で解像度の高い物語を創り出しているのか!という驚きに満ちたものであった.感覚的には芸人・俳優のエッセイに対する感動がそれに近いのかもしれない.

 ただここまで書いておいてオモコロ内には恐山さんの作家的側面を感じられるものはいくつもあるし,そもそも過去の偉大な文豪をはじめとする物書きの人ってそういう抜けてるエピソード的なのあるよな,何ならどんな人でも何かしら変なとこあるもんなと思ってしまったので私が彼に抱いていたのは単なる良さなのかもしれない.でも本は本当に良かったので是非読んでみてください.

 まだ私のkindleの本棚には同著者の『名称未設定ファイル』が未読で眠っている.楽しみ!

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