梅の花の薫る頃
立春のころは一番寒い。
茨城県水戸市で育った私は子供の頃からずっとそう思ってきた。水戸は空っ風と呼ばれる海に向かう風が冬は強いうえ、街が馬の背状の台地の上だからか、風の強さもかなり。大体早朝はー4〜5℃なんかになることもよくあったし、これに風・・・子供で無くても寒い。
でも確かに、時々日中の気温が温むことがある。
日射しが冬のそれよりすこし頭上高めから届くようになる。
記憶の中で2月のあの街の風景は、なぜかいつも日が暮れかかっている。寒い、と日の陰ってきた街を歩く私に 一瞬懐かしい匂いが微かに届く。次の瞬間には消えてしまうし、キョロキョロしても見えないのだが、私はあるときそれが梅の花の匂いだと知った。
日本三名園のひとつ、偕楽園を街の台地の南側に有している。でも子供心にまだ緑のない時期に咲く花だけに梅林というのは地味でつまらないと思っていた。家族旅行で連れて行って貰った後楽園のすばらしさ、そのころは写真でしか見たことがなかったが雪の兼六園の厳かな美しさと比べたのか、
「こんなにみすぼらしいのに三名園なんて言いすぎじゃ無いの」
と小学生の私が恥ずかしく思った(本当にスミマセン)。単に「自分が育っている街」が大都市の華やかさを持たないのが恥ずかしい年齢だったのか。
大学に入ってから帰ることが少なくなって、育った街は故郷に変わった。
大学を卒業し数年経って私はまた都内で暮らしていた。ある日連続勤務でくたくたで家に向かう道で、ふと懐かしい香りに足を止めた。やはり香りは一瞬しか届かなくて、でもそのときは道沿いの家の庭先にぽつん、ぽつんと咲き始めた紅梅を認めた。
仕事も、その時付き合っていた人とのことも、沢山悩みがあった。気の置けない友人に「久し振り!」なんて肩を叩かれたら泣き出してしまいそうなくらい辛い時期だった。そんなこともあって・・・・寒空の下、その美しい紅梅に胸を掴まれた。
華やかで儚い3月末の桜の方が好きだった。
同じ早い春先なら木瓜の花とか桃の花のほうが柔らかくて可愛らしくて好きだった。
けれど どうしようもない懐かしさと勇気をくれたのは、まだ真冬といって良いほど寒い夜の、街灯にぼんやり照らされていた紅梅だった。あのゴツゴツして見栄えがいいとは言いがたい木の幹、ともすれば成長がそんなに苦しいのかと思うような枝振りの梅に、ぽつん、ぽつんと花が咲き、他の蕾も賢明にふくらみつつあった。
今は花木では梅が一番好きだと思う。
梅が多い街に育つことが出来て良かったと、この年になると本当に思う。
異国に住んであの木を手に入れることはできていないが、立春の声はあのときの紅梅の花を思い起こさせる。
幹の形がどうだとか立派だとかそんなことよりも、毎年花をつけることが大事なのだとあの時知った。その花が思いがけず誰かを勇気づけることもあるのだと。人生ってそんなものなのかなとおもったときから20年以上経って、あの感覚は間違っていなかったなと思う。
ウイルス騒ぎでどうなるのだろう、と思っていたが、今年も梅まつりが行われることになったそうだ。良かった、と思うと同時にまだ当分あの花を愛でることが出来ない状況が憎らしい。
チャンスがあったらぜひどうぞ。(ウイルス対策でのあれこれのルールはあるらしいですが。。。。)
何と!チームラボ・偕楽園光の祭、なんてものもあるらしい!!!うぎゃーーーー行きたい!!!
個人的な好みですが偕楽園なら表門(ちょっと探さないとわからないかも)から入って吐玉泉なんかを見ながら行くルートと、あとは弘道館の梅も素晴らしいですよ。
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