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ジョアン・ジルベルトガイド⑪/イマージュの部屋 Amorozo 1977〜1978年

・ポップミュージックとの邂逅

トミー・リピューマにとってこのアルバムのプロデュースは、キャリアの中で大きなトピックだったのではないだろうか。
60年代後半にリピューマが手がけたA&Mレーベルでの仕事を聴けば、Getz/Gilbertoでのソフィスティケートされ、かつ親しみやすい表現が根底にあったのが分かる。
クロディーヌ・ロンジェのか細い歌は、アストラッドがいなければ成り立たなかった表現であると思われるし、クリス・モンテスやサンドパイパーズ、ロジャー・ニコルスのようなソフトな表現もGetz/Gilbertoの影響下にあると言える。

70年代以降のブルーサムレーベルやワーナーでの、ジャズとポップミュージックを行き来する作品たちはまさにGetz/Gilbertoが最初に切り開いた道そのものではないだろうか。リピューマはジャズとポップミュージックが隣り合わせになったこの時代のタイミングで、ジョアン・ジルベルトを自分のフィールドで手がけることになる。

この時期リピューマが関わったものとしては、マイケル・フランクスの存在も大きい。Amorosoと同年の1977年にリリースされたSleeping Gypsyでは、ブラジル音楽への影響が色濃く現れている。ここではもうひとりのジョアンであるジョアン・ドナートも参加している(ギターは名手エリオ・デミーロ)。

このようにリピューマの経歴を考えれば、アメリカ国内のプロデューサーの中では、ジョアンの音楽に対して一番適材な人物だった。
さらにアレンジャーにジョビンの諸作品や、先ほどのマイケル・フランクスのSleeping gypsyを手がけたクラウス・オガーマンを起用し、録音とミキサーにはアル・シュミットと最強の布陣が組まれている。
オガーマンが人選されたのは何よりジョビンの作品を手がけていたからではないかと思う。かつてオガーマンはジョビンのアレンジを手がける際に、アメリカのミュージシャンは2/4拍子に慣れていないため、2/2拍子でアプローチした方が良いとジョビンに進言していた。そういったことから、ブラジル音楽へのアプローチもこなれていると認識されていたと思われる。

レコーディングは1976年11月にニューヨークのローズバドスタジオ、1977年1月にハリウッドのキャピトルスタジオで行われた。
まずジョアンの歌とヴィオラォンを録音し、その後オケをオーバーダブするという手法がとられている。
Amorosoリリース後、ジョイスの自伝「私のカメラがとらえたあなた」に、ジョイスがニューヨークでジョアンと会った時のやり取りが書かれている。
「クラウス・オガーマン、あいつをレコーディングに入れるのはやめろ。あの大足の牛野郎は僕のアルバムを潰しやがった」
ジョアンはこのアルバムの出来に満足していない。
「言ったじゃないかあいつとレコーディングするなって…」
ジョイスはこの後オガーマンとレコーディングするものの、お蔵入りになり未だにリリースされていない。

このアルバムは豪華絢爛な装飾に囲まれているものの、トゥーマッチになってしまった印象も強い。オガーマンのアレンジは冴え渡っているものの、ジョアンのリリカルな部分を殺してしまっている感もある。Em MexicoでのBesame muchoと比べればよく分かると思う。
とはいえ、ここまでのジョアンのキャリアの中でも力の入れ具合が異なり、オーケストラ部分には賛否はあるかもしれないが、立体的なアンサンブルの組み立て方は特筆するべき内容ではある。入れどころの難しいダブルベースの演奏も主張は少ないが自然に溶け込んでいる。ここでのジョアンのバチーダを活かしたモダンなアンサンブルが、その後発展する事なく終わってしまったのは至極残念であると感じる。

・収録曲について

このアルバムでもっとも意外な選曲が冒頭のガーシュウィンの’S Wonderful。訛りの強い英語ではあるものの、しっかりジョアン節になっている。

Estateはブルーノ・マルティーノは⑦でも書いた通り、イタリアでこの曲を知り10年以上経ってからレコーディングされた。ブラシを使ったドラムと、ジョアンのヴィオラォンが絡み合う立体的なアレンジが素晴らしい。

ジェラウド・ジャキスとアロルド・バルボーザによるTim tim por tim tim。この曲の軽快なドラムも素晴らしい。

Besame muchoはEn Méxicoでも録音していた再演。カストロ・ネヴィスの淡い色彩のアレンジに比べ、こちらは重厚なストリングが施されている。

後半はジョビンの4曲。
Waveは67年にCTIからリリースされたアルバムのタイトル曲。ジョビンの方もオガーマンがアレンジを手がけているので、聴き比べると全く異なるアプローチが施されている。

Caminha cruzadosはジョアンのレパートリーの中でも早い段階で演奏されていたが、ここにきてやっとレコーディングされる。

Tristeは同じくWaveから。ハイハットの刻み方が心地よい。

ZingaroはゲッツとのThe best of two worldsの再演。こちらはクレジットの都合なのか原題に戻されている。ここでのジョアンの歌唱はカエターノ・ヴェローゾのお気に入りである。

Amoroso

A1 'S Wonderful (George And Ira Gershwin) 
A2 Estate (Bruno Martino - Bruno Brighetti) 
A3 Tin Tin Por Tin Tin (Haroldo Barbosa - Geraldo Jaques)  
A4 Besame Mucho (Conseulo Velaquez) 
B1 Wave (Antonia Carlos Jobim) 
B2 Caminha Cruzados (Antonio Carlos Jobim - Newton Mendonca) 
B3 Triste (Antonio Carlos Jobim) 
B4 Zingaro (Antonia Carlos Jobim -Chico Buarque) 

João Gilberto Completo ◦ 1978

ブラジルのバイーアにあるカストロ・アウヴェス劇場でのライブ。


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