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【映画】ザ・スクエア 思いやりの聖域 The Square/リューベン・オストルンド
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タイトル:ザ・スクエア 思いやりの聖域 The Square 2018年
監督:リューベン・オストルンド
事故や事件に巻き込まれる時は、得てして予想もなく唐突に来るもので大体面食らう。突然被害者になった時、途方に暮れながらもなんとか解決策を考える。オストルンドの映画が面白いのは、被害者が加害者に転じた時にサムゼロになるかというとそうではなく、新たな問題が山積していくだけという皮肉が全編に施されてる所だと思う。問題解決の先に起こした出来事が、新たな被害者を生み出す。そして被害者がいれば当然加害者もいるわけで、一方通行な様を描くのではなく、立場や関係性でそれらが違う所で反転していく。
冒頭のスリの話は関係の無い少年を巻き込みながら映画の通奏低音となっているが、他にも砂利の展示物が壊された被害者から、体裁を保つために黙って直す加害者に切り替わる。YouTubeの炎上についても管理不足が招いた事とはいえ被害者でありながらも、立場の上では加害者となる。ひとつひとつは被害者と加害者の立場でありながらも、事柄によってそのどちらにもなり得るという恐怖をコミカルに描いている。
それと同時に描かれているのが、集団心理が起こす出来事について。対談のシーンでの卑猥な言葉を発する男性や、階段での挨拶から立食へ移動する時乃様子、そして緊迫感のある晩餐会のシーンがそれに当たる。
あのシーンの冒頭では、”まもなく野生の動物が現れます”というアナウンスが入りますが、これは”傍観者効果”を説明しているものです。人間は群れをなす動物で、大勢の人がいる公共の場でなにかが起こると、誰が対処すべきなのかわからず、麻痺してしまい受け身になってます。そしてその後、”なぜもっとヒーローのような行動をとらなかったのだ”と個人が責められたりします。ですが、我々は根本的には群れの動物ですので、そういった行動をとってしまうのです。”傍観者効果”とは、”自分ではなく他の人を狙って”という我々の心理を指摘しているもので、自分たちのこうしたパターンを破るには、行動学視点から自分たちの性質について知ることが大切だと思います。
https://fansvoice.jp/2018/04/28/square-ostlund-interview/
晩餐会の最後のシーンでパーティの参加者たちが、それまでの恐怖を払拭するように「やっちまえ!」と集団で暴行を加える所は思わず笑ってしまうのだけれど、直前まで自分には火の粉はかかるなと俯きながら祈る様子と真反対の状況は、まさに被害者と加害者が入れ替わっている(この場面に比べて、唐突に登場するオランウータンの大人しさの対比も上手い)。
—作品の中で物乞いやホームレスが出てきますが、ストックホルムはこの10年で変わったと思いますか?
変わったと思いますね。2004年のEUの東方拡大以降、ヨーロッパの加盟国を自由に行き来することができるようになってからは、ルーマニア人の路上の物乞いはいきなり増えましたし。10年前に比べると、もっと国際的になっていると思いますね。
https://fashionpost.jp/portraits/132796
旧共産圏へのEU拡大がもたらした移民のホームレスの問題は、現在起きている戦争と地続きになっている。つい数日前にパリの様子がツイートされて話題になっていた。
Paris 花の都パリ pic.twitter.com/JWnDVzSyXK
— nobby (@nobby_saitama) June 12, 2022
パリの移民の様子は一方的な侵略が起因になっているが、それ以前から続く移民問題に拍車をかけるような状況にも感じる。
この映画での倫理観を揺さぶるオストルンドの批評性と、それをエンターテイメントに落とし込む表現の巧みさはパルムドールを取るのも納得出来る。次作もパルムドールを獲得しているので楽しみ。