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【映画】別れる決心 헤어질 결심/パク・チャヌク


タイトル:別れる決心 헤어질 결심 2022年
監督:パク・チャヌク

「あなたの愛が終わった時、私の愛が始まった」その台詞が出た途端に映画の輪郭がくっきりと浮かび上がり、全身がぞわっとする感覚があった。
刑事と被疑者という関係の中で恋心が生まれてくる、ミステリーとラブロマンス作品であるのだけれど、そこにある謎は事件よりもふたりが抱える想いの”見えなさ”である。既婚者でもあるふたりてはあるが、想いとは裏腹にフィジカルな距離は縮まる事はなく、一方で感情的な繋がりは内の中で次第に強固なものになっていく。近寄ろうとも近寄れない刑事と被疑者、互いの婚姻関係、疑念と恋愛の錯綜した関係性は、社会的立場が揺らぐ緊張感を常にはらむ。ふたりの関係の親密さを描く繊細な描写に対して、事件など大きく話が展開する時のダイナミックな描写が繊細さを吹き飛ばす事なく両立するチャヌクのバランス感覚はとにかく凄い。
チャヌクらしいケレン味のある躍動感溢れる映像も存分に楽しめるが、ショッキングな表現は控えめで、むしろそれらを見せない事で想像させる余白を作っている。そしてそれ以上に五感を扱った表現の方が映画の主題に寄り添った感がある。ハンドクリームやタバコなどの匂い、寿司とホットグ(見事な対比 笑)などの味覚、呼吸を合わせる時の聴覚、手のひらの柔らかさについての触覚、そして一番多く描かれるのが視覚だろう。各キャラクター側からの視点に限らず、死者が最後に見た光景や、スマホ画面側からの視点、並ぶ時の目線を交わす仕草など見る事で生まれる関係性が全編で強いインパクトをもたらす。
面白いのが、大仰な演技を打ち消す様にコミカルな表現へ転化しているところで、シリアスに流れやすい場面に軽さを付加する事で物語が軽快に進む潤滑剤として担っていた。
かなり詰め込み気味で、初見で全てを理解するのが難しいくらい次々と事件や台詞が雪崩の様に溢れかえり、物語に追いつくのもやっとなくらい。韓国でも何度も見返す人が多いのも納得出来るくらい、とにかく情報量が多い。
繊細な表現とダイナミックな表現が無理なく収まった近年の韓国映画の中でもかなりの傑作だと思う。中々にこういった表現はどちらかが突出しがちで、大味になるかこじんまりとしてしまうかだと思われるので、今の韓国映画の成熟さを強く感じさせる。不条理な現実と無情の愛の形の余韻が残り続ける。
主役のふたりは何処かで見た事がある俳優だなとおもっていたら、ポン・ジュノの殺人の追憶に出ていたパク・ヘイルと、ビー・ガンのロング・デイズ・ジャーニーに出ていた(こちらもドレスが印象に残るファムファタール役)タン・ウェイだった。配役も申し分ない。


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