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【音楽】Fleet Foxes/Shore ロビン・ペックノルドとブラジル音楽についての雑感

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9/22に急遽リリースされたフリートフォクシーズの新譜「ショア」。先日メンバーのスカイラー・シェルセットがインタビューで、フリートフォクシーズの新譜はロビン・ペックノルドひとりで作っていて、他のメンバーは参加してないと話していた通り、実質ロビン・ペックノルドのソロ作に近い形をとりながらも、内容はフリートフォクシーズ以外の何物でもない充実したアルバムに仕上がっている。

ブラジル音楽ファンとしては、かつてミュージックマガジン(2011年5月号)でのインタビューでロー・ボルジェスの名前が上がっていたことが話題になっていた。フリートフォクシーズの奏でるリヴァーブと、ブラジルのミナスサウンドに共通する、山々の響きを感じさせる部分に共鳴しているのがよく分かる。この時にミルトン・ナシメントを知らないという発言もびっくりしたものの(ミルトンを通らずにローに至るというのが昨今の欧米事情かもしれない)、どうやらSpotifyに上がってるプレイリストを見るとミルトンも含まれているので、その後触れたと思われる。

ロー・ボルジェスのファーストと、クルービ・ダ・エスキーナの一枚目は欧米でもアナログでリリースされているので、知られていると思うのだけれど、プレイリストを見ると思ったほどミナスサウンドに触れている様子はなく、二枚のクルービ・ダ・エスキーナとローのファーストとサード、ミルトンのサードとMinasくらい。トニーニョ・オルタやベト・ゲヂス、フラヴィオ・ヴェントゥリーニ、カイミの子供達などは含まれていなかった。
プレイリスト全体を通してみると、カエターノ・ヴェローゾ、ジルベルト・ジル、ガル・コスタ、ムタンチス、トン・ゼーらトロピカリア勢が多く含まれている。この辺りは欧米でのリイシューやピッチフォークなどでも紹介されているので、深掘りしやすい所なのかなと。

この十年あまり、サブスクとYouTubeがもたらした欧米以外の音楽が世界を席巻している事象はあらゆる所にみられていて、ブラジル音楽だけでなく日本のシティポップなどそれまで埋もれていた音楽がインターネットを介して触れられている。アメリカ国内のインディレーベルも、アメリカやイギリスといったそれまで主となっていた所からは異なったものをリリースする動きが活発化している。グラミーにノミネートされたライト・インジ・アティックからリリースされたニューエイジのコンピレーション「Kankyo-Ongaku」などは最たるものと言える。ロビン・ペックノルドのもう一つのプレイリストにはしっかり吉村宏の曲もリストアップされている。

プレイリストの中でフリート・フォクシーズの音楽とダイレクトに通じるのがミニー・リパートンのLes FleurやトークトークのAscension Day辺り。ミニー・リパートンのこの曲はフォーキーなソウルナンバーで、本作にドラムで参加しているThe Dap-Kingsのホーマー・スタインワイズの起用とも繋がるようにも思える(プレイリスト含め教えてくれたmonchiconさんありがとう!)。トークトークはポストロックの始祖として90年代以降重要な位置を占めていて、60〜70年代から密かに続くブリティッシュジャズとロックがクロスしたものが花咲いたバンドでもある。特にフリート・フォクシーズのリズム隊への影響は、トークトークが一番大きいように感じる。
フリート・フォクシーズというバンド自体は90年代から派生したアメリカーナや、アパラチアンフオークの流れに主軸を置きつつ、雑多な音楽性を含んでいるのがプレイリストやインタビューから伺える。ドビュッシーやストラヴィンスキーといった近代クラシックから、フェアポート・コンヴェンションやトゥリーズ、リンダ・パーハックスといったブリティッシュフォーク、ヒップホップの枠組みを超えたJディラと言った所など、今のアメリカのミュージシャンが抱える雑多性が如実に現れた好例としてみる事が出来る。

つらつらと御託を並べたけれど、コロナ渦以降の閉鎖的な社会の中で突き抜けた歌を届けたロビン・ペックノルドの姿勢は素晴らしい。個人的にも緩やかな曲よりも、アップテンポな曲や、スケール感を感じさせる歌を主に聴くようになっているので、そういった道を示したこのアルバムは今の空気にフィットしている。

ロー・ボルジェスやミルトン・ナシメントらのミナスの音楽についてはこちらにまとめているので、参照いただければと。


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