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【映画】アメリカン・アニマルズ American Animals/バート・レイトン

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タイトル:アメリカン・アニマルズ American Animals 2018年
監督:バート・レイトン

ドキュメンタリーとセミドキュメンタリーが合わさった作品というと、他にもありそうな感じではあるものの、過去(セミドキュメンタリー)と現在(ドキュメンタリー)が劇中の中で交差していく事で、物語の立体感がぐっと増している。過去のシーンで本人が出てくる所は、特にラストシーンで一番効果的に使われていて、このシーンだけでも起こった事柄が取り戻せない過去が過ぎ去ってしまった喪失感が存分に表現されていた。
強盗事件が失敗するのは冒頭からわかり切っている中、彼らがどの様にそれを思い立ち、行動に移すかが焦点にある。セリフにもあるように、宝くじを買わずに宝くじに当たる夢を見るという考えが全てを端的に表している。先の見えない現実の最中、思い立った計画の先にある未来は実のところ彼らの行動からは見えてこない。これだけの事件を起こそうとしながらも、そこで得た金銭をその暮らしのまま過ごそうとしている時点で既に破綻している。監督のインタビューで「トレインスポッティング」の名前が上がるけれど、レントンのように高飛びするという話は一切出てこない。
(レントンの高飛び先はオランダだったというのも、何か因縁を感じる)

映画自体はドキュメンタリーとしてみた方がいいのかもしれない。犯行を犯した四人とその家族、図書館の管理をしていたBJなど、当人が出ているのがこの映画のポイントだと思う。先のインタビューでBJがこの映画を観て、四人のパーソナルな部分を知って許すことが出来たという。この映画がもたらした副産物であり、アメリカ社会がもつ「何者かにならなければいけない」という強迫観念の中に生きる若者たちという実情を知るということでもあると思う。それは冒頭に出てくる面接でパーソナリティを知るという事にも繋がってくる。主犯の四人のそれぞれの立場も、各々のパーソナリティを把握しているかといえばそうではなく、結局のところ疑いが払拭されないまま今に至るというのは皮肉な関係ともいえる。

この映画では音楽の使われ方が印象に残った。劇中犯罪の参考にしていた「オーシャンズ11」で印象的に扱われるエルヴィス・プレスリーの「A little less conversation」が流れる。過去にあったクライムムービーの印象を逆手にとり、それっぽい音楽が終始流れている。ドノヴァンの「Hurdy Gurdy Man」、ドアーズの「Peace Frog」、プライマル・スクリームの「If they kill ‘em」などレアグルーブに近い扱いの音楽(プライマルだけ90年代)を使っているのは、そういった雰囲気を醸し出すアイテムとして登場している。
ロドリゲスの「Crucify your mind」がエンドロールに流れるのは、ロドリゲスのドキュメンタリー「シュガーマン」があったから使ったと思うし、カンの「Vitamin C」はレディオヘッドのジョニー・グリーンウッドが関わったPTAの「インヒアレントヴァイス」やトラン・アン・ユンの「ノルウェーの森」の影響も感じる。(00年代以降存在感を増しているカンの曲を扱ったのはリン・ラムジーの「モーヴァン」辺りが始まりだと思う。)
スペンサーの部屋にウィルコのポスターが貼ってあったり、ニューオーダーのシャツを着ていたりと、小ネタも要所要所に挟んでいるのも見過ごせない。

ドキュメンタリーとセミドキュメンタリーを切り離して考えると陳腐な内容にも思えるけれど、合わせた事でマジックが起こった良作だと思う。今のSNSなどがある社会だったら、彼らはどうなっていたのだろうと想いを馳せるのも一興だと思う。


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