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ジョアン・ジルベルトガイド⑩/ベスト・オブ・トゥー・ワールズ&ゲッツ/ジルベルト’76 / The best of two world & Getz/Gilberto’76 1975〜1976年

・10年越しの再会

1975年、今回のコラボレーションのきっかけはゲッツからの申し出だった。
64年にGetz/Gilbertoが発売されてからというもの、ジャズの世界にブラジル音楽が入り込み、70年代に入るとフュージョンやAORの中に、大きな要素として取り上げられることも少なくなかった。アメリカに拠点を移したデオダートの大ヒット作Prelude(ツァラトゥストラはかく語りき)、アイルト・モレイラとフローラ・プリン夫妻を起用したチック・コリアのReturn to forever、ミルトン・ナシメントを起用したウェイン・ショーターのNative dancerの様に、60年代とはまた違ったクロスオーバーが発生しており、そういったものがトレンドとして活発化している最中の時代の空気だったと言える。
ゲッツは恐らくこう言ったシーンの動向をみて、元々第一人者である自分も挑戦したいと感じていたのではないかと推測する。というのもGetz/Gilbertoの頃は、それまでの自分のジャズのキャリアがあり、ボサノーヴァだけを演奏すればセルアウトしたと非難されるかもしれないという、危機感と隣り合わせになっていた。アストラッドやカルロス・リラとライブを行なっていたものの、完全にジャズサイドの自分を捨てる事が出来ない環境だったと思われる。70年代のフュージョンシーンはそう言ったジレンマが解消されつつあった時期にあたり、周辺のミュージシャンは自然とコラボレーションを活性化させていった。そこでゲッツは再開したジョアンへコンタクトを取りGetz/Gilbertoの続編を作ることになる。
この頃のジョアンは不遇な時代を過ごしていて、仕事もなくちょっとした金銭を調達するための仕事としてありついた。ただ、ここでのジョアンの表現は、後に80〜90年代のライブ活動を通して花開く即興的表現の萌芽を見る事が出来るので、素通りは出来ない。
1976年にこのアルバムが発売されると、ジョアン再評価が起こり次作Amorozoへと発展していくことになる。

・収録曲について

今まで発表してきたアルバムで重複する曲の説明は省くが、それぞれ歌の入り方が異なる。前作でのどっしりと同じ節を繰り返していた表現から、ここでは繰り返すたびに異なる表現をしようとしているのがうかがえる。歌の尺を伸ばしたり縮めたり、前に詰めたり後ろに遅らせたりという、ジョアンなりの即興を表現しようとして、こういった形になっていったのかもしれない。Getz/Gilberto同様、ここでもジョビンの曲が中心となっている。
Double Rainbowは原題Chovendo na Roseira(バラに降る雨)というタイトルのワルツ。ジョアンは不参加で、ヴィオラォンを担当したカストロ・ネヴィスのバチーダはジョアンとは異なるテクニックを聴くことができ、比較すると違いがよくわかる。ジョアンのスタイルを基に、それぞれが独自のスタイルを築き上げているのが面白い。

ボサノーヴァを否定するような気怠い歌詞が印象的なLigiaはこのアルバムの目玉。ジョビンはこのアルバムの録音の翌年にリリースするUlubuで発表しているため、ジョアンはジョビンに先駆けてのレコーディングとなった。どういった経緯でこの曲をジョビンから伝えられたのかは不明。ゲッツはこの曲で二本のサックスを多重録音していて、曲の持つ諦念感を上手く盛り上げている。個人的にジョビンの曲の中で一番好きな曲。

そして次のアルバムAmorozoへの橋渡しとなるRetrato En Branco E Prieto(白と黒のポートレート)。原曲はジョビンのZingaroというインストで、ミウーシャの兄シコ・ブアルキが歌詞をつけたものがこのタイトルである。ジョビンのマイナー系ナンバーの完成系ともいえる。ナラ・レオンのカバーも素晴らしい。

コール・ポーターのJust One Of Those Thingsは、En Mexicoで取り上げたTrolley songと同じように、ジョアンはシンプルな2ビートでギターを弾いている。歌はミウーシャのみ(ジョアンはほんの少しスキャットしている)

・現行CDについて

2005年にリマスターされたCDと、それ以前のCDが手元にあり聴き比べたところ音が全く異なっていた。2005年盤はリマスターというよりもリミックスになっている。おもに歌の定位が異なりリヴァーブ(残響音)がふんだんにかけられている。ドラムのリムショットを聴くと一目瞭然で音処理が全く異なる(オンマイクとオフマイクぐらい差が出ている)。2005年盤は過剰な感じはあるものの、それ以前の盤はかなり地味でローファイな印象だった。落ち着いて聴けるのは2005年盤の方だと思う。あとFalsa bahianaのイントロが異なったりしているため、不思議な差が生じてしまっているアルバムである。

ジャケットは表と裏を見比べると面白いので、是非手にとって見て欲しい。

The best of two worlds

A1 Double Rainbow(A. Carlos-Jobim, G. Lees)
A2 Aguas De Março (Waters Of March)(A. Carlos-Jobim)
A3 Ligia(Carlos-Jobim)
A4 Falsa Bahiana(G. Pereira)
A5 Retrato En Branco E Prieto (Picture In Black And White)(A. Carlos-Jobim, C. Buarque)
B1 Izaura (You Know I Just Shouldn't Stay)
(Monica Christina,H. Martins, R. Roberti)
B2 Eu Vim Da Bahia(G. Gil)
B3 Joao Marcello(J. Gilberto)
B4 E Preciso Perdoar(A. Luz, C. Coqueijo Costa)
B5 Just One Of Those Things(C. Porter)

・サンフランシスコでのライブ

アルバムの宣伝も兼ねて、サンフランシスコのキーストーンコーナーでライブが行われた。ゲッツメインのライブではあったが、6日間2セット行われてた中ジョアンは1日3、4曲演奏に加わっていた。その時の演奏がコンパイルされて2016年にアルバムとしてリリースされた。The best of two worldsの時の演奏に近いが、70年代のジョアンのライブはそれまでオフィシャルで出ていなかったため資料としても貴重なものである。

Getz/Gilberto’76

A1 Spoken Intro By Stan Getz 
A2 É Preciso Perdoar 
A3 Aguas De Março 
A4 Retrato Em Branco E Preto 
A5 Samba Da Minha Terra 
A6 Chega De Saudade 
A7 Rosa Morena 
B1 Eu Vim Da Bahia 
B2 João Marcelo 
B3 Doralice 
B4 Morena Boca De Ouro 
B5 Um Abraço No Bonfá 
B6 É Preciso Perdoar (Encore)


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