歴史あるローカル線で州境越え
みなさんはフィレンツェとボローニャの行き来には3つの方法が存在していることを知っていますか?今日のフィレンツェからボローニャへのアクセスの主流といえばフレッチャロッサ(Frecciarossa)やイタロ(Italo)といった高速鉄道で、安く済ませようと思ったらプラート(Prato Centlare)経由でボローニャに向かうという方法もあります。しかしプラートから少し離れたピストイア(Pistoia)から電車を乗り継いでいくという方法はほとんど知られていないし、利用したことのある人はほぼ皆無だと思います。それは当然のことであって、なぜならピストイアから乗り継ぎ駅であるポッレッタ・テルメ(Porretta Terme)までは1日に6往復しか設定されていない超ローカル線だからです。今回はそんな山間部を走る超ローカル線に乗ってきました。
ポッレッタナ線(Ferrovia Porrettana)
Wikipediaによると、またの名をボローニャ-ピストイア線(ferrovia Bologna-Pistoia)とも呼ばれるこの路線はフィレンツェとボローニャを直接結んだ最初の路線であるそう。当時はアペニン山脈を貫くトンネルの建設は技術的に難しかったことから完全に山脈を迂回したルートとなっており、そのためか路線図も独特の形状をしている。開通は1864年と古く、トンネルでアペニン山脈を貫くプラート-ボローニャを結ぶ路線や高速鉄道路線であるフィレンツェ-ボローニャ線(Ferrovia Bologna-Firenze)の開通までは主要路線であったために電化もされている。地図や前情報から山間部を走り、一気に標高を稼いでいく路線であることを知り、車窓を楽しめそうだと思ったためイタリア滞在最終日に時間を取って乗りに行くことにした。
ボローニャ(Bologna)
本題から話が逸れてしまうが、同日にプラート-ボローニャ線を利用してボローニャに訪れた。ボローニャでの観光もそうだが国内の都市間輸送を担う特急インテルシティ(Intercity)に乗るのが目的であった。
朝方、フィレンツェ中央駅(Firenze Santa Maria Novella)に到着し、切符を購入してホームへ向かうと9月10日から運行が開始されたばかりのミュンヘン(Muenchen HBF)とローマ(Roma Termini)を結ぶナイトジェットがホームへ入線してきた。遅れの影響で見ることができたのでかなりラッキーだった。
乗車予定のインテルシティは案の定10分ほど遅延してやってきた。国内の特急は遅延するのが一般的で、ひどい場合は2時間以上の遅れにもなる。今回乗車したのは普通の電車のような車体のインテルシティだった。インテルシティには2種類車両があり、もう一つは流線形のようなものである。座席は向かい合わせのボックスシートが基本で、座ると座板(座るところ)がスライドする形でかなり座り心地は良かった。
ボローニャでは欲しかったユニフォームを購入したり、ボローニャの斜塔を見たりと街歩きを少しして、昼前のイタロでフィレンツェへと戻った。
ピストイア(Pistoia)
フィレンツェに戻り、昼過ぎのヴィアレッジョ(Viareggio)行きレジョナーレでピストイアへ向かう。平日の昼過ぎということで多くの学生が乗車していた。ピストイアでも多くの学生が下車し、駅は人で溢れかえっていた。ピストイアから先は単線で入れ違いが必要なため、上りの遅れもあって乗車してきたヴィアレッジョ行きは上り列車の到着を待って5分ほど遅れて発車していった。
目的の電車まで30分ほどあったので一度駅舎の外へ出てみる。移動中雨に見舞われたが到着してしばらくすると雨が止んでいた。イタリアの雨は比較的短時間で止む印象がある。駅から少し歩いたところに歴史地区のようなものがあるようだが、小雨が降ってきたことと時間の都合上今回は訪れなかった。
駅に戻り、水がなくなったのでバール(Bar)で水を購入した。自信がなくても片言でもイタリア語で話すとイタリア人は割とにっこりしてくれたり返事をしてくれたりする印象がある。どうしても…という場合は大抵の駅に設置されている自販機で購入する方法もある。軽食もあり移動には欠かせない存在といえるが、値段が若干高めなので節約をしたい場合は定型文などを覚えて注文するのがいいだろう。自分は「Una Aqua, per favore.(水をください)」とか物を指さして「Questo per favore.(これを下さい)」とか言っている。大抵の場合はカードが使えるので「Posso Pagare una carta?(カードで払えますか)」と言ってカードで払える。
ホームへ戻ると4番線には新型車両POPが止まっていた。おそらく折り返しのフィレンツェ方面行きだろう。ここピストイアはフィレンツェから当駅への行先が設定されており、主要都市の一つといっても過言ではないだろう。
ポッレッタ・テルメ行きの到着10分前くらいになると徐々に人が増え始め、学生を中心に20名ほどが待っているという状態であった。本数が少ないこともあって人が集中するのは当然だろう。発車10分前には多くの乗客が駅にやってきたが、ほとんどが2番線あるいは3番線(ルッカ(Lucca)あるいはフィレンツェ方面ホーム)へ移動し、結局1番線で電車を待つ乗客はそこまで増えなかった。
しばらくすると列車の入線を告げるアナウンスが流れ、折り返し列車の担当乗務員もやってきた。車両は新型のPOP。アルストム(Alstom Ferroviaria S.p.A)製で2016年登場。列車を待つ乗客は結構いたが、乗車してみると先頭車はガラガラだった。地元の乗客は自分が降車する駅の出口の位置を考えて号車を選んでいるのだろう。新型車両らしく車内にはモニターが設置されており、案内も充実している。
ピストイア(Pistoia)~プラッキア(Pracchia)
1分遅れで電車はピストイアを出発した。遅れの原因が車掌と乗客が何やら叫びながら会話をしていたためというのもイタリアならではであり新鮮である。どうやらプラート方面行き電車かどうか尋ねていたようだ。
発車後右へカーブし、本線と別れる。当時は主要路線の一角であったが今ではその面影はない。しばらくは街中を70km/hほどで疾走していく。モニターには速度も表示する機能が備わっている。ほどなくして最初の停車駅ピストイア・オヴェスト(Pistoia Ovest)に到着。数人の乗車があった。
オヴェスト駅発車後に切符をどこにしまったか確認していると通りかかった車掌が「Ecco!」と言ってきたのでちょうど見つけた切符を提示。しばらくは街中を疾走していたが、やがて建物が少なくなり緑が多くなってくる。右へ左へとカーブしているような感覚に陥る。実際地図を確認してみるとそれなりのカーブを繰り返しているようだ。途中ヴィッラノーヴァ(Villanova)という駅を通過。おそらく現在は使用されていないものと思われる。トンネルとカーブから上越線に乗っているような気分になる。トンネルの合間からは集落が見下ろせる。この短時間でかなり標高を稼いだようだ。窓の大きな電車で眺めを楽しめるが、素材の関係上反射しまくりで写真は撮りにくいのが欠点。ノロノロと蛇行運転しながら左眼下に集落を見ているとピテッチョ(Piteccio)という駅が近づいてくる。しかしこの駅も通過していく。
ピテッチョ駅を通過すると長いトンネルに入る。大きく右へ左へとカーブし進んでいく。このあたりのカーブはかなり急で、地図でもそれを確認できる。いくつかのトンネルを抜けようやく次の停車駅コルベッツィ(Corbezzi)に到着する。この時点で5分ほどの遅れになっていた。乗降客は見たところいなそうだった。
コルベッツィ発車後再び長いトンネルへと入る。しばらくは両サイドに森が広がりあまり眺めは楽しめない。ほどなくしてカスターニョ(Castagno)へ到着。森に囲まれた小さな駅で、駅舎の奥には小さな集落が見える。この駅でも乗降はなかった。
発車後小さなトンネルを抜け、右手に山々と僅かに集落がみられる。相変わらずトンネルを出入りしているとほどなくしてサン・モンメ(S. Momme’)に到着。ここでは3人ほどが降車した。車掌が駅へ降りるや否や「雨だわ!」と叫んでいた。そして客と一言二言会話をしていた。駅周辺に集落があり、また駅前には車が止まっているなど生活感を感じられた。
相変わらずトンネルは続く。この辺りはトスカーナ州と隣のエミリア・ロマーニャ州の州境付近で深い山々の間を走り抜けていく。モニターには様々な箇所に設置されている防犯カメラの映像が永遠と流れているのだが、それを見た感じ乗客はかなり減っていた。程なくして到着したプラッキア(Pracchia)は駅舎も稼働しており乗客も数名いた。駅前には大きな建物もあり人間の活動を感じられる。ここプラッキアが明確なトスカーナ州最後の駅である。
プラッキア(Pracchia)~ポッレッタ・テルメ(Porretta Terme)
プラッキアを出発してからは建物が点々と見えるが、しばらくしてトンネルへと入る。プラッキア出発後しばらくレノー川(Fiume Reno)に沿って州境を走っていく。途中立派な石造りのアーチ橋が左手に見えた。左右にカーブをしながら進んでいくとビアジョーニ・ラガッチ(Biagioni Lagacci)に到着する。途中吉野川沿いを走っているような景色が続く。駅周辺には道路が2本敷かれており、綺麗に舗装されていた。
ビアジョーニ・ラガッチを出ると今度は右手に川が並走する。ほどなくして中規模の集落が見えたと思うとモリーノ・デル・パッローネ(Molino Del Pallone)に到着。ここでは数名の乗降があった。券売機がないらしく、乗客は車掌から切符を購入していた。こういうのを聞くのもリスニングの練習になる。
出発後しばらくトンネルが続き、トンネルを出ると今度は左手に川が並走する。滝や橋梁を見ながら進んで行くと、程なくしてポンテ・デッラ・ヴェントゥリーナ(Ponte Della Venturina)に到着する。大きなマンションが駅前にあり車の往来も見られる活気のある街のようだ。数名が降車した。
駅周辺に民家が広がり、なかなかの規模のヴェントゥリーナの街を抜け、左へとカーブしながら走っていくと終点のポッレッタ・テルメ(Porretta Terme)が近づいてくる。相変わらず街の境界には長めのトンネルがある。トンネルを抜けると比較的大きな川を渡り終点のポッレッタ・テルメに到着。自動放送ではこの先のボローニャ方面への乗り換え案内放送が流れていた。
ポッレッタ・テルメ(Porretta Terme)
この駅を境に運行が完全に分離されており、直通列車の設定はない。ボローニャ方面への列車はかなり本数が多く実際多くの客が列車に乗車していた。
ポッレッタ・テルメの街はまずまずの規模で、Wikipediaによると、近くのリゾート地の関係でウィンタースポーツの中心地でもあるそう。時間があれば散策をしたかったが、ローカル線あるあるの折り返し時間が短いということもあって駅前の散策をするのみで済ませた。駅前には大きな橋が架けられており、その先にはモニュメントがあった。学校方面へのバスも駅前から出ているようで、完全に通学用ダイヤで思わず笑ってしまった。
折り返し列車
当然車掌は同じだったので切符の提示時に「さっき会ったばかりなのにもう戻るの!?」と驚かれ、明日帰国だからフィレンツェに戻らないといけないと説明し、その後軽く談笑した。陽気な車掌が多いのもまたイタリアらしい。
折り返しは反対側の座席を確保して眺めを楽しんだ。途中開けたところの景色など行きでは見ることが出来なかった眺めを楽しむことができ、どちらの側でも楽しめる路線であると実感した。
山々が広がり、自然豊かな車窓、そしてピストイアの街並みを見下ろせるロケーションは最高だった。観光地というわけではないような小さな街にローカル線で訪れるという体験は非日常感もあってとても楽しかったので、またイタリアに訪れた際にこういう体験をしたい。