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【転載】「芥川賞選考会があり、5つの候補作を読みました。」平野啓一郎氏のメールニュース

定期的に送られて来る平野啓一郎氏のメール。
何かに登録したからだと思うが、覚えていない。
 
最新のメールに芥川賞選考会のことが書かれていたが、同氏のnote 記事には書かれていない。最初の頃は本人が書いていたのかも知れないが、今はスタッフが書いているようだ。

その代わりというわけではないが、小説好きな方には興味深いと思うので転載しておきたい。

こんにちは!

梅雨も明けて、いよいよ暑くなりましたが、お変わりありませんでしょうか?
何だか、またコロナが流行っているようで、イヤになります。マスクをするにもこの暑さでは、熱中症の方が心配ですが、人混みが気になる室内では、マスクをするケイスも出てくるでしょうね。
7月は芥川賞の選考会があり、5作の候補作を読んでいました。
近年の芥川賞は、レベルが上がっていると思うのですが、今回は2作受賞でした。
僕は、受賞したその2作のうち、『バリ山行』を推していました。六甲山という身近な山で、通常の登山道ではない、バリエーション・ルートと呼ばれる道なき道を開拓する男を巡る物語なのですが、まず読み物として抜群に面白く、描写も臨場感があり、非常に完成度の高い作品です。著者は、「面白い純文学」を謳っているようで、記者会見では、他の著者の例として僕の作品も挙げていたようです。全然、知らなかったのですが、後で記者から聞きました。

自分の仕事の方は、秋に刊行する短篇集のタイトルが、収録作から採った『富士山』に決定し、その装幀のデザインを求めて、東京都写真美術館まで、たまたま開催されていた「WONDER Mt.FUJI」展を見に行ってきました。瀧本幹也さん、野町和嘉さん、広川泰士さん、吉田多麻希さんと、知人の写真家の作品が多く、見応えがありました。
富士山というと、チープなナショナリズムのシンボルのようで、あんまりその表象自体は好きではなかったのですが、三島由紀夫記念館で講演をした際に、山中湖からつくづく富士山を眺めていて、そのワイルドな山肌のテクスチャーに甚く心を動かされ、それからずっと気になっています。実際の富士山は、もちろん、自然そのものですから、「日本」というような文化的な意匠とは無縁で、むしろ、人間が住むずっと前から存在している、土地の起伏そのものという感じで、その意味では却って、ナショナリズムを解体するような力があるような気がします。
短篇「富士山」では、東海道から眺める富士山という、浮世絵でもお馴染みの文化的な表象を描きつつ、その言語化不可能な存在感を、主人公の心象風景に重ねました。
どうぞ、お楽しみに!

今年の夏は、実家に帰省するくらいで、大きな旅行の計画はありません。
円安で、海外旅行もなかなか大変ですが、どうぞ、夏休みをお楽しみください!
ではでは!

平野啓一郎


第171回芥川龍之介賞の選考委員会は、2024年7月17日東京築地・新喜楽で開催された。

8月初旬に発売の文藝春秋9月号に掲載されるので、それを待ち。
(近年、文藝春秋の購入は芥川賞が掲載される3月号と9月号)
 
文藝春秋にもサブスクがあり、初年度は5,400円/年だが、2年目以降は10,800円/年と謎の価格設定。

月刊誌以外の記事や動画も見られるらしいが、そこまで付き合う気はない。
今までどおり、読みたい時にKindle版を購入した方がよさそうだ。


前回(3月号)の購入と感想文はこちら。


 MOH