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ニュージーランドで発生した大規模デモについて
2024年11月19日、ニュージーランドで4万人を超える大規模なデモが行われました。当初は参加者数が約3万5,000人と報じられていましたが、正確な人数については不明です。一部のメディアでは5万人に達したとも伝えられています。ニュージーランドの人口は約500万人であり、これは日本の人口規模に換算すると約100万人がデモに参加していることに相当します。
この規模感のデモは極めて異例であり、世界中で進行する分断の一側面ともいえる出来事です。
デモの発端
今回のデモのきっかけは、ニュージーランド政府が提出したワイタンギ条約の解釈を変更する法案にあります。ワイタンギ条約とは、1840年にイギリスと先住民族マオリの間で結ばれた協定で、ニュージーランドの主権をイギリスの王室に譲渡する代わりに、マオリの文化や権利を保護するという内容です。
ワイタンギ条約は、英国の君主と先住民マオリとの間で1840年に締結されました。同条約締結を機に、ニュージーランドは英国領となりますが、マオリが有する土地や文化の継承は約束されました。同条約はニュージーランド最初の条約と考えられています。
ワイタンギ条約の解釈変更法案
この条約には英語版とマオリ語版があり、両者の解釈の違いがしばしば論争の火種となってきました。条約に基づき、マオリには特定の土地の使用権が認められており、国が開発を行えない地域も存在しています。
一部の人々は、マオリに与えられた特別な権利を「不平等である」と批判しており、今回の法案はそのような意見を背景に提出されました。しかし、マオリの人々はこれを「権利を狭める動き」と見なし、強く反発しています。
ニュージーランド社会の現状
現在、ニュージーランドの総人口のうち約18%(約9万人)が自分自身をマオリと認識しています。ただし、先祖にマオリを持つ人の割合はさらに高く、今回の法案を主導したACT党の党首も自らの先祖にマオリがいると述べています。このため、ニュージーランド社会では「マオリか否か」を単純に区分することは困難です。
格差問題
近年、マオリとそれ以外のニュージーランド人との間で格差が拡大しており、それが社会的対立を深める要因となっています。
例えば、ニュージーランド全体で受刑者の半数以上がマオリであり、女性受刑者に限ればその割合は約33%です。また、マオリの平均寿命はニュージーランド全体の平均よりも7年短いというデータがあります。
格差の原因
これらの格差は、1948年以降に実施された同化政策とその失敗に起因すると考えられています。この政策では、マオリを強制的に別の地域に移住させる取り組みが行われましたが、移住先で生活に馴染めず、結果としてスラム街に集中する状況を生み出しました。
その結果、犯罪が増加し、取り締まりが強化されるという悪循環が続きました。
政治的対応
今回の法案は連立政権を構成するACT党が中心となって提出しましたが、もう一つの与党であるクリス・ラクソン首相率いる国民党は、この法案を支持しない意向を示しています。そのため、第2回目の審議を通過する可能性は低いと見られています。
しかしながら、今回のデモを通じて表面化したマオリの人々の不満や怒りは、簡単には沈静化しない可能性があります。そのため、ニュージーランド国内の不安定な状況がしばらく続くことが懸念されています。
類似事例① ニューカレドニア
今回のデモは、今年6月にニューカレドニアで発生した暴動と類似点があります。ニューカレドニアでは、フランス政府による長年の同化政策が先住民族との格差拡大を招き、暴動に発展しました。
類似事例② オーストラリア
同じく、先住民族との分断が注目された例として、オーストラリアでも今年、先住民の権利を巡る抗議活動がありました。例えば、イギリスのチャールズ国王がオーストラリアを訪れた際、リディア・ソープ上院議員が「私たちの国王ではない」と叫び、世界的な注目を集めました。
オーストラリアはニュージーランドのような先住民族との正式な協定を結んでいませんが、協定を結ぶべきだという意見もあります。ただし、ニュージーランドの例を見る限り、協定の存在だけでは根本的な解決には至らないと考えられるでしょう。
ソーシャルメディアの影響
今回のデモの規模がここまで拡大した背景には、ソーシャルメディアの影響が大きくあります。11月14日、マオリの議員が国会で伝統的な舞踊「ハカ」を踊りながら抗議を行った動画がTikTokで7億回以上再生され、大きな話題となりました。この動画をきっかけに、多くの人々がデモに参加するようになったと見られています。
ハカは先住民マオリの伝統的な踊りで、儀式や戦闘に臨む際に披露されます。一族が団体で行うハカは、部族の強さと結束力を表現しています。
SNSの影響は今回のデモに限らず、今年6月のニューカレドニア暴動でも見られました。この時、フランス政府はニューカレドニアでTikTokの使用を一時禁止する措置を講じました。また、フランスと対立するアゼルバイジャンが虚偽情報をSNS上に流しているとの主張もあり、SNSが国際的な分断や緊張に影響を与える時代になっていることを示しています。
SNS中心の情報収集
SNS中心の情報収集が一般的になるにつれ、SNS内で評価される情報や発信者がより厳しく選別される時代が訪れるでしょう。
経済的影響と今後の見通し
ニュージーランド経済は規模が小さいため、世界経済全体への影響は限定的と考えられます。ただし、ニュージーランドドル建ての債券に投資している日本の投資家も一定数いるため、デモや政情不安が長期化した場合には、金融市場に影響が及ぶ可能性があります。
まとめ
今回のニュージーランドでの大規模デモは、国内外における先住民族の権利や社会格差に関する議論の重要性を改めて浮き彫りにしました。デモの今後の展開や法案の行方によって、ニュージーランドの政情がどのように変化していくか注視する必要があります。進展があれば、情報を更新していきたいと思います。今後ともよろしくお願いいたします。
ご参考
スペインの住宅問題
特にバルセロナでは観光客の増加がこの住宅不足の問題の一つの原因になっているという考え方があります。観光客に水をかけるデモまで起こっており、世界でもスペインの状況が注目されています。
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