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中国政府の地方融資平台(LGFV)問題
2024年11月8日、中国政府は地方政府の隠れ債務に対する借換え計画を発表しました。その規模は10兆人民元、日本円にして約200兆円に上ります。この計画については、あまり詳細な解説が見られないように思われますので、今回はこの「隠れ債務」の借換え計画について解説します。
明日は中国の隠れ債務圧縮計画についての解説動画を公開します。妙佛DEEPMAXさんも、昨日、同じテーマで動画を出されていたようです。私は債務を付け替える意味を解説しましたが、DEEPMAXさんは、少し違った視点で解説されていて、興味深かったです。良かったら両方見てみてください。
— 【世界経済情報】モハPチャンネル (@MohaP_WorldNews) November 12, 2024
隠れ債務とは何か
隠れ債務とは、地方政府の管理下にある不動産デベロッパーや資金調達会社が抱える債務のことを指します。これらの会社は、いわゆる「融資平台」(Local Government Financing Vehicle)と呼ばれるもので、地方政府のインフラや不動産開発のための資金を調達しています。
これらの債務は、形式上は地方政府の直接債務ではありませんが、実質的には地方政府の事業に関連しているため、「隠れ債務」として扱われています。
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IMF(国際通貨基金)の試算によれば、この隠れ債務の総額は約9兆ドル(人民元換算で約60兆元)、日本円では約1300兆円に達するとされています。これは中国のGDPの約5割に相当する規模です。
地方融資平台(LGFV)に対する評価は変わり、LGFVは中国国内でも地方政府の債務統計に反映されない隠れ債務を増やす元凶と目されるようになった。
借換え計画の概要
今回発表された借換え計画では、隠れ債務のうち約10兆元(日本円で約200兆円)を地方政府の正式な債務に借り換えることが決定されました。具体的には、地方政府が債務上限を引き上げて資金を調達し、その資金で融資平台が抱える債務を順次償還していくという流れです。
これにより、これまで曖昧な形で隠れていた債務が地方政府の正式な債務として表面化することになります。
借換え計画の意義と影響
隠れ債務の借換えが進むことで、融資平台が抱える償還リスクに対する不安が軽減されることが期待されています。
これまで償還リスクの高まりにより新規プロジェクトを進められない地方政府も多く存在していましたが、借換えにより投資を促進する効果があると見られています。
地方政府の負担軽減
地方政府が直接資金を調達することで、資金調達コストを抑えることが可能となります。これにより、浮いた資金を経済対策に回すことができる点も利点とされています。
融資平台が発行する債券は、地方政府の発行する債券よりも高い利回りを投資家から求められる傾向があるため、地方政府が直接借り入れる方が効率的です。この計画によって、地方政府の負担は5年間で約6,000億元(日本円で約12兆円)程度圧縮できる見込みです。
世界の投資家の中国への債券投資はこれからも拡大していくことになり、中国企業による不正に巻き込まれる可能性は債券市場でも高まっていると言えるかもしれません。
潜在的なリスク
しかし、この計画にはリスクもあります。隠れ債務を正式な地方債務にするということは、地方政府が債務返済の責任を負うことを明確化することを意味します。融資平台が資金を投入してきたプロジェクトの多くは、地方のインフラや不動産開発に関連しています。しかし、その中には収益性が低い、または全く収益を生まないプロジェクトも多く含まれている可能性があります。このようなプロジェクトに対して地方政府が責任を負うことで、返済が困難になるリスクがあるのです。
返済不能なリスク
特に、これまでの地方政府は使いもしないインフラ開発を多数進めてきた経緯があり、それらが返済困難な債務に転じる可能性があります。さらに、今回の計画が進む中で、地方政府の一部が「返済不能」となる事態が発生することも考えられます。その場合、中央政府がどのように対応するのかが次の焦点となるでしょう。
IMF(国際通貨基金)の推計では、融資平台全体の債務のうち10~15%程度が返済不能となり、債務整理が必要になると見られています。そして、これらの損失を最終的に誰が負担するのかについては、まだ不透明な部分が多いのが現状です。
今後の展望
今回の決定に際して、中央政府は融資平台(LGFV)の改革を進める意向を示し、無謀な借り入れを行った地方公務員への責任追及も行うとしています。このような状況下で、地方政府には土地市場の回復やプロジェクトの収益性向上を求めるプレッシャーがかかると考えられます。
ただし、こうした状況がさらなる債務拡大やバブルを生む可能性も否定できません。これまで隠れていた債務が表面化したに過ぎず、同じ問題が繰り返されるリスクもあるため、楽観視は禁物です。
市場の反応
今回の借換え計画については、経済メディアなどであまり大きく取り上げられていません。その理由の一つとして、市場関係者が期待していた「積極的な投資を促進する財政政策」が示されなかった点が挙げられます。
そのため、中国のマーケットを注視している投資家にとっては、期待外れの内容だったといえます。
総括
中国地方政府の隠れ債務問題は規模が大きく、解決までには非常に長い時間がかかると予想されます。今回の計画はその一歩に過ぎず、全体的な債務整理の過程はまだ始まったばかりです。引き続き、この問題の進展を注視する必要があります。今後ともよろしくお願いいたします。
ご参考
中国の財政政策
これまでも、ダメな企業を潰しながら必要なところは救済し、その上で景気刺激策も過度にならない範囲で実施してきたのが、2020年以降の中国の財政政策です。
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