スイス時計業界苦戦理由と円とスイスフランの話
スイスの主要な産業である時計業界が直面している苦境について説明します。個人的には時計への関心が薄く、20年ほど前に妻から贈られた時計を一つ所有しているのみです。それも現在ではほとんど使用していません。また、高額な時計を身に着けたいと思ったことも一度もありません。
しかし、スイスにおいて時計は非常に重要な輸出品目であり、物価が高いことで知られる同国にとっては極めて重要な産業です。そのため、スイスの時計業界の動向はスイス経済にとって大きな意味をもちます。
スイスの時計輸出データの詳細
スイス時計協会(Federation of the Swiss Watch Industry FH)が11月19日に発表したデータによると、2024年10月の時計輸出額は前年同月比で-2.8%減少し、23億スイスフランとなりました。現在、1スイスフランは約175円のため、日本円に換算すると約4,000億円に相当します。
データの出所
海外の情報を発信しているYouTuberは、海外メディアの情報をそのまま伝えていると思われがちです。確かにそういう人もいますが、私の場合は一次データを元に説明することが多いです。今回の内容はスイス時計協会が公表している一次データのみをもとにしています。
このデータを確認したい場合は、スイス時計協会の公式ウェブサイトを検索し、統計セクションをご覧ください。
国別輸出動向
減少:中国と香港
国別データを見ると、最も大きな変化があったのは中国です。前年同期比で38.8%減少しています。香港も14.8%の減少となっています。この背景には、2020年から2022年にかけてのゼロコロナ政策による消費低迷の影響から、2023年のリベンジ消費で一時的に需要が急増した反動があげられます。
また、不動産バブルの崩壊に伴う景気低迷も減少の要因として見逃せません。そのため、今後も中国および香港への高級腕時計の輸出は減少が予想されます。
増加:日本とアメリカ
一方で、大きく伸びた市場は日本です(前年同月比+20.4%)。次いでアメリカが+11.3%の増加となっています。
これまで輸出シェアの順位は1位がアメリカ、2位が中国、3位が日本でしたが、中国と日本の順位が逆転し、日本が2位に浮上しました。アメリカの輸出シェアは18.0%、日本は8.1%、中国は7.1%です。
アメリカ
アメリカ市場では、堅調な経済成長と富の格差拡大が背景にあると考えられます。労働市場には弱さも見られますが、株式市場は2024年11月に最高値を更新し、資本家層の富が増加を続けています。このことが高級腕時計の需要拡大を後押ししていると考えられます。
日本
日本市場の成長要因としては円安の影響が挙げられます。外国人観光客向けの販売を目的とした輸入増加が要因の一つとみられます。また、日本国内の株式市場も最高値を更新しており、日本でアメリカ株式に投資する富裕層の存在も需要拡大に寄与していると考えられます。
その他の市場動向
シェア4位のイギリスでも高級腕時計の需要は堅調です。同国では富の格差が拡大しており、2024年には上位60人の納税者が6,000億円もの所得税を納める一方、ホームレスの増加が問題となっています。このような社会構造が高級腕時計の売れ行きを支えている可能性が考えられます。
日本円とスイスフラン
安全資産としての役割の変化
スイスフランは、安全資産としての役割を担っている通貨の一つです。かつては日本円も同様にリスクオフ時に買われる通貨でしたが、最近では日本経済の弱さが目立つようになり、スイスフランの独歩高が続いています。
この強すぎるスイスフランは、スイスの輸出産業にとっては大きな障害です。スイス製品はもともと高価格帯ですが、通貨高の影響でさらに割高になります。それでも売れる高級腕時計は、スイスの輸出品目の中でも特に重要な存在となっています。
時計産業のスイス経済における重要性
繰り返しになりますが、スイスにおける時計は最も重要な輸出品目の一つです。2023年の輸出本数は1,690万本で、輸出額は200.5億スイスフラン(約4.3兆円)に達しました。時計産業の経済的意義が非常に大きいことがわかります。
今後の展望
中国市場の回復は期待薄とみられるため、スイス時計業界としては日本やアメリカでの需要増加でそれを補えるかが焦点となります。また、それに続くイギリスやシンガポールの市場拡大も重要視されています。
個人的な視点
私は高級腕時計やヨーロッパの高級ブランド品には個人的に興味がありません。これらの業界は、ヨーロッパの階級社会や格差社会の文化の中で生まれ育ってきたものであり、一般人が一生手に届かない価格帯の製品を提供することもあります。
このようなビジネスモデルは、格差拡大を背景としており、社会的に好ましい現象ではないと考えています。
まとめ
スイスの時計業界が直面している苦境とその背景について解説しました。今後の動向に注目しつつ、スイス時計業界がどのように変化していくか見守りたいと思います。
ご参考
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