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投資初心者への質問と回答、誤解の解消


 私が資産運用に関わる仕事をしていることを知っている方に、投資についての意見を求められることがよくあります。相手がどういう話を求めているかによりますが、そういう質問を受けた時には、時間的に限りはありますが、できるだけ丁寧に説明しようと思っています。

 やや長めの記事になりましたが、この記事で一番お伝えしたい内容は最後の段落「貯蓄から投資へのシフトの誤解」です。是非ご覧いただけますと幸いです。今後ともよろしくお願いいたします(TeamモハP)。

投資初心者からの質問と回答

 記事をご覧の方の中には、すでに投資経験が豊富な方もいらっしゃると思います。また、私と同じように初心者の方から質問を受ける機会がある方もいらっしゃると思います。これから投資を始めようと考えている初心者の方もいらっしゃるでしょう。そうした方々の参考になればと思い、私がよく受ける質問とそれに対する答えを紹介したいと思います。

投資全般に対する質問と回答

 一番よくある質問は、投資全般に対する質問です。例えば、「NISAとか色々あるけど、投資とかどうなの?」とか、「投資とかした方がいいの?」というような質問をいただくことが多いです。これに対して私は、「やりたい人はやったらいいと思いますが、私はおすすめはしません」とお答えすることが多いです。

投資初心者へのアドバイス

 なぜこういうお答えをするのかですが、その言葉の通り、やりたい人はやったらいいと考えています。投資で成功していくには、一発勝負で終わりではありません。その投資がうまくいってもそうでなくても、その経験を踏まえて、また投資をしていかなければなりません。その都度、投資の意思決定と、利益確定なのか損切りなのかの意思決定も必要になります。こうした的確な意思決定を行えるようになるには、まずリターンを獲得したいという思いがなければなりません。人に勧められてやるのではなく、人に何と言われてもやりたいという人がやるのがいいと思います。そうした意味で、「やりたい人はやったらいい」とお答えしています。

投資に対する私の見解

 一方、私が「おすすめしません」とお伝えしているのにも理由があります。当然、私はいつも金融市場を見ていて、自分なりに常に投資の機会を伺っています。今年どういう商品にチャンスがあるか、どういう商品が不利か、そういう自分なりの予測も持っています。しかし、この質問をしてきた方に、短時間でそれがなぜ魅力的で、リターンを生むと考えているのかを伝えるのが難しいことが多いのが現実です。
 リスクやリターンについて正しく理解せずに、ただ注目の銘柄だけをお伝えしても、おそらくその方はうまくいかないでしょう。そのため、「私はおすすめしません」というのは、もう少し詳しく言うと、「今このタイミングでおすすめできる投資手法はありません」という意味で、「私はおすすめしません」とお伝えしています。

投資初心者に対する私の見解

 私は機関投資家になる前に、証券会社で個人顧客への営業をしていた経験もあります。少しお話しをすれば、その方がどの程度投資について理解されているか、だいたい把握することができると思っています。そうした経験から言えるのは、こうした質問をしてこられる方や、大手証券や銀行の窓口で投資の相談をされるような方にも多いのですが、自分で考えるのではなく、詳しい人の言う通りに投資をしておこうと考えている方が意外と多いということです。

投資初心者への警告

 こうした考えの方は、その投資がうまくいかなかったとき、失敗した要因をその投資をすすめた人のせいにするケースが多く見受けられます。そうなると、当然トラブルに発展する可能性もあります。そうしたトラブルを避けるという意味でも、自分で投資の判断ができそうにない人には、「おすすめはしません」とお伝えしています。

投資をしていく上で重要なのは、成長するものに投資をするということです。もちろん、10年で10倍とか100倍とかになる企業の株に投資ができたら一番いいわけですが、それだけ成長する企業を見つけることは一般の投資家にとっては簡単なことではありません。

NISAに見る投資対象と投資の本質について

 投資に関しては、人の話を聞くことが悪いわけではありません。ただ、聞いた話を自分で判断せず、人の話を鵜呑みにしてしまうことは適切ではありません。あくまで、最終的には自分の判断で投資をしなければなりません。証券会社や銀行の窓口に行く投資初心者の方には、それができない方が多いのが実情です。

インフレと投資に対する質問

 次に、最近よく受ける質問は、「インフレが上がってきて、現金で置いておくと、インフレに負けてしまうから、投資をした方がいいですか」という質問です。私はこの質問を聞いて、やや怒りを覚えます。何に怒っているかと言いますと、このセールストークで勧誘している証券会社、保険会社、銀行などの営業に対してです。

セールストークへの警告

 「インフレが上がってきて、現金で置いておくと、インフレに負けてしまう」というセールストークに反応する人というのは、資産運用でリターンを獲得したいという積極的な姿勢というより、資産を防衛したいという保守的な人たちで、これまでも守り中心の資産形成をしてきているので、リスク商品への投資経験がないケースが多いと思われます。
 
おそらく証券会社などは、インフレヘッジなどと言い、株式などが組み込まれた投資信託を進めたりしているのだと思いますが、こうした人たちのリスク許容度からすると、株式などのリスクの高い商品を勧誘するのは適切ではないと私は考えています。

インフレと投資に対する質問の回答

 私はこの質問を受けた時は、「インフレ局面で投資をするのはとても難しいので、もし資産を保全したいというニーズなら、現金で持っておく方をおすすめします」とお答えしています。

積立投資について

 もう一つよく受ける質問として、「積立投資についてどう思いますか」というのがあります。積立投資というのは、毎月一定額で投資信託などに投資をしていく手法のことです。これは一般的には、購入するタイミングを分散できるため、安全性の高い投資手法と言われていますが、私は資金の性質によってはおすすめしていません。

ドルコスト平均法と投資

 積立投資というのは、ドルコスト平均法と言われる買い方のことです。ファイナンス理論上、ドルコスト平均法は合理的な投資手法とされています。ファイナンス理論では、常にマーケットの動きはランダムで、市場の動きを予想することは誰にもできないという考え方が前提にあります。そのため、購入するタイミングのリスクを分散した方が良いということになります。

定額購入法(ドル・コスト平均法)
値上がり・値下がりする株式や投資信託の購入単価を下げるために定期的に一定金額ずつ買い付ける方法。購入時期を分散することで価格変動リスクを低減させる効果がある。定期的に一定額を投資すると、株価が安いときは多く、株価が高いときは少ない株数を購入することになり、結果として1株当たりの購入価格は平均化されます。

日本証券業協会HP

 しかし、本当にマーケットの動きはランダムでしょうか。そして、購入するタイミングのリスクを減らした積立投資は、本当に成功するのでしょうか。

 積立投資が有利かどうかについての研究もありますが、こうした研究においては、積立時のことしか考えていない場合がほとんどです。売るタイミングを考えなくてもいいくらい、長い期間投資ができる資金があればいいですが、将来的に売却する可能性がある場合、投資をしたタイミングと売却したタイミングの価格差は少なからず投資に影響を与えます。

積立投資の適切な活用

 積立投資は比較的リスクを抑えて投資ができる手法ではありますが、資金の性質によっては売るタイミングのリスクを排除することはできないため、売却する可能性についてよく考えて投資を行うようにお答えしています。

貯蓄から投資へのシフトの誤解

 質問される方の中には「貯蓄から投資へとシフトさせることが日本経済にとってプラスになる」というようなことをお話しされる方もおられます。

岸田政権では、今年を「資産所得倍増元年」とし、「貯蓄から投資へ」のシフトを大胆かつ抜本的に進めていきます。
「人生100年時代」。個々人の生き方、働き方も多様になり、それぞれのライフプランにあわせた資産形成が重要になっています。

首相官邸HP(令和5年6月30日)

 「貯蓄から投資へ」というのが良いことのように語られる機会が多く、そう信じている方が多いですが、これは間違った認識です。貯蓄から投資へのシフトがなかった場合、つまり、個人投資家がお金を動かさない場合、引き続き銀行がその資金を預かり、銀行が国内外への投融資を行います。個人投資家がリスクを取るか銀行がリスクを取るかの違いでしかありません。経済にとってどちらがプラスであるかは判断が難しいところです。
 一方、国や銀行にとっては、銀行にリスクが偏りすぎる状況は避けたいというのがあります。銀行がリスクを取りすぎて潰れそうになると、救済しなければならなくなるためです。個人投資家はいくらやられても、国は見捨てることができます。そのため、個人投資家にリスクを取らせようとしているわけです。「貯蓄から投資へ」と言われている背景には、こうした思惑が見え隠れしているということを忘れてはいけません。


ご参考

 日本のNISAは、イギリスのISAと違って、リスク資産への投資を促そうという意図があるということは、利用する方はよく理解しておいた方が良いと思っています。そこは、単に資産形成をしましょうと言っているイギリスと大きく異なる部分です。
 リスクの低い預金からリスクの高い投資を促すにあたっては、それが素晴らしいことであるように宣伝をするのではなく、確率は低くても失敗する可能性があるということを伝えていくことも重要だと考えています。

日本のNISAと英国ISAの比較


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