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5月31日のユーロ圏消費者物価指数の解説
2024年5月31日、ユーロ圏の5月の消費者物価指数が発表されました。以下に詳細をお伝えします。
消費者物価指数(HICP)について
ユーロ圏の消費者物価指数(HICP)について解説します。これまで、アメリカの消費者物価指数について解説してきましたが、欧州については詳しく解説していませんでした。欧州中央銀行(ECB)の利下げ見通しに注目が集まっています。その中で、ユーロ圏の消費者物価指数についても今まで以上に関心が高まっています。
ユーロ圏の消費者物価指数とは
まず、ユーロ圏の消費者物価指数とは何かについて説明します。欧州の消費者物価指数はHICPというものです。アメリカや日本の消費者物価指数はCPI(Consumer Price Index)と呼ばれていますが、欧州ではHICPと呼ばれています。
HICPの詳細とその計算方法
HICPとは、Harmonized Index of Consumer Priceの略で、日本語では消費者物価調和指数と呼ばれます。欧州各国はそれぞれ消費者物価指数(CPI)を発表していますが、各国の基準が微妙に異なるため、ユーロ圏全体の数値を出すためには単純に加重平均することができません。そこで、各国の基準を統一した数値に調整し、その上で加重平均したものがHICPとなります。
5月のユーロ圏のHICPの結果
次に、5月のユーロ圏のHICPの結果について説明します。前年比プラス2.6%となり、予想のプラス2.5%を小幅に上回りました。4月はプラス2.4%でしたので、前月の数値も上回っています。エネルギーや生鮮食品を除いたコア指数はプラス2.9%となり、前月のプラス2.7%を上回りました。予想もプラス2.7%でしたので、予想を上回り、強い結果となりました。
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HICPの上振れ要因(エネルギーとサービス)
上振れした要因は、エネルギーとサービスです。
エネルギーの前年比は4月のマイナス0.4%から5月はプラス0.3%に上昇しました。エネルギーはこのところの原油価格の上昇を受けたものというよりは、ベース効果、つまり昨年にインフレが落ち着いたところから1年が経ち、比較する前年の数値が下がってきたため、前年比の数値が上昇するという状況になってきています。
一方、サービスについては前年比プラス4.1%となり、4月のプラス3.7%を上回り、今年に入り最も高い伸びとなりました。このところ、欧州は賃金に関する経済指標も高いものが出てきており、サービスインフレが心配される状況になってきていますが、そうした動きと整合したものとなりました。
HICPの上振れ要因(国別)
国別に見ますと、
ドイツ :前年比プラス2.8%、4月のプラス2.4%を上回りました。
フランス:前年比プラス2.7%、4月のプラス2.4%を上回りました。
イタリア:前年比プラス0.8%、4月のプラス0.9%を下回りました。
スペイン:前年比プラス3.0%、4月のプラス2.9%を上回りました。
ただし、このうちドイツの上昇については、テクニカルな要因が含まれています。それは、2023年から始まった49ユーロチケットという鉄道チケットによる影響です。これは、49ユーロでドイツ国内の鉄道、地下鉄、路面電車、バスなどの公共交通機関が1ヶ月間乗り放題になるというものです。2023年5月にこれが導入されたことで、この時にインフレ率を大きく押し下げました。今、そこから1年が経ち、その押し下げ効果が前年比で見た時にようやくなくなり、それを受けて今月からやや持ち上がってきたという面があります。
それを除いても、ドイツ以外の国でもサービスインフレの高止まりはやや目立ってきており、今後、ECBの金融政策にも大きな影響を与える可能性が高まってきています。ドイツについては、6月も持ち上がる可能性があります。それは、ユーロ2024というヨーロッパのサッカーの大会がドイツで開催される予定になっているからです。これも一時的に消費を押し上げ、インフレの一時的な上昇要因になる可能性があります。
サッカーとビジネス
サッカーはビジネスとしての側面が非常に強いスポーツです。特にヨーロッパでは、プロリーグだけでなく、育成年代も含めたあらゆるカテゴリーで大きなお金が動いています。ヨーロッパのサッカーというのは非常に金にシビアな世界です。
ECBの理事会と金融政策の見通し
ECBの理事会では、3月、6月、9月、12月にGDPの成長率や消費者物価の見通しが発表されますが、今回はこのところの消費者物価数の上昇、経済成長率自体もやや上向いてきているということを受けて、それらが修正される可能性があります。3月時点では、GDPの見通しは
2024年がプラス0.6%、2025年がプラス1.5%、2026年がプラス1.6%
となっています。HICPの見通しは
2024年がプラス2.3%、2025年がプラス2.0%、2026年がプラス1.9%
となっています。
利下げの可能性とマーケットの反応
ECBがマーケットの予想以上にサービスインフレの高止まりを警戒したり、ラガルド総裁がそういう姿勢を示すようなことがあれば、12月の利下げも難しいということになるわけですが、そこまでECBが警戒感を示す可能性は私は低いと思いますし、マーケットでもそうしたことを予想する人は多くないでしょう。
私の考え
ECBやマーケット関係者が認識している以上に、今後欧州のサービスインフレの高止まりはしぶとく続いていくと私は予想しています。サービスインフレというのは、雇用契約が複数年にわたる関係でなかなか下がってこない場合が多いです。
欧州の労働者はこれまで欧州危機後に自分たちは大変な思いをしてきたのだと、過去に遡って賃上げを求め、ストライキをする可能性もあります。市場関係者が予想している以上に厄介な問題になっていく可能性があると私は考えています。年の後半に向けての欧州の注目材料になっていくのではないでしょうか。
ご参考
4つ目に重要なのが粘着性です。要するに、継続する可能性があるインフレなのかどうかということです。
粘着性があるとされているいくつかの品目があります。それらの品目が上がってくると、粘着性があると見ることができます。その品目というのが1つはサービス、もう1つは家賃です。このサービスと家賃に粘着性、つまり継続性があるのは契約期間があることと関係していると言われています。