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エネルギー問題と移民政策に見るドイツの変化


 ウクライナ戦争以降、エネルギー問題で苦しんできたドイツですが、ここにきて国の重要な産業である自動車業界が苦境に陥っています。フォルクスワーゲンが国内の工場を閉鎖することに加えBMWも業績が低迷しています。ますます厳しい状況になってきています。
 一方、移民に反対する政党が支持を伸ばしており、そうした政治動向にも注目が集まっています。日本のテレビではアメリカの情報が中心で、ヨーロッパ、特にドイツやフランスに関する報道は少ない傾向があります。そこで、この記事ではドイツの注目すべきニュースを説明します。

ドイツとケニアの包括的移民協定

 2024年9月13日、ドイツ政府はケニアと包括的移民協定を締結しました。この協定は、高度な技能を持ったIT人材をケニアから受け入れる一方で、ケニアからドイツにやってきた不法移民をケニアに送還するという内容です。ドイツの公共放送によると、現在ドイツに住んでいるケニア人は1万5,000人、そのうち800人以上が滞在資格を持っておらず、国外退去を迫られています。
 今回の協定の締結にあたり、ドイツの内務大臣は「ドイツに住む権利を持たない人は徹底的に出身国に送還させる」と強調しています。

国境管理の強化とテロ対策

 また、9月16日からドイツでは不法移民対策として国境管理の強化を開始しました。既存のオーストリア、スイス、ポーランドとの国境に加えて、フランス、オランダ、ベルギー、ルクセンブルク、デンマークとの国境管理を開始し、全ての国境を警備する体制になっています。
 この措置の背景には、8月に起きたテロ事件があります。3人が殺害されたこの事件の犯人は難民としてドイツに入ってきた人物で、イスラム国が犯行声明を出しました。こうしたテロへの警戒が強まったことが今回の措置の一因です。

8月23日に26歳の男がイベント会場に侵入し、刃物で多数の人を切りつけ3人を殺害するという事件が起こりました。犯人の男は難民申請のためにドイツに入国した後、国外に送還される予定だった人物であることが明らかになっています。

メディアが報じない移民問題

移民反対政党の支持拡大

 移民反対を訴える政党が支持を伸ばしてきています。複数の地方選で与党が敗退し、移民反対を訴えるAfDやザーラ・ワーゲンクネヒト同盟などが支持を伸ばしています。
 与党としても2025年に選挙が控える中で、不法移民やテロに対してしっかりと取り締まりを強化しないと支持率が低下してしまうため、急いで不法移民対策に乗り出しているという面があります。

与党は嫌だがAfDも無理という人たちの受け皿になっているのが「ザーラ・ワーゲンクネヒト同盟 理性と公正のために(BSW)」、ザーラ・ワーゲンクネヒト氏の名前を前面に出した新党です。

ザーラ・ワーゲンクネヒト氏と新党BSWの台頭

インテルの工場建設延期

 9月16日、アメリカの半導体大手インテルがドイツ東部に計画していた工場の建設を2年程延期すると発表しました。インテルも業績が低迷しているため、コスト削減の一環で建設の延期を決めたということです。
 自動車業界だけでなく、製造業全般においてドイツで生産するコストが高くなっている状況です。

ウニクレディトとコメルツ銀行の株取得

 また、イタリアのメガバンク、ウニクレディトがドイツ2位の銀行であるコメルツ銀行の株を取得した件について、ウニクレディトは保有株を30%まで増やす意向を示しました。すでに取得した株数は9.0%ですが、さらに増やす予定です。
 ドイツ政府はコメルツ銀行の株式を16.5%持っており、今回4.5%を売却したため、現在の保有比率は12.0%です。ドイツ政府は予定通り全ての株を売却する方針だと報道されています。

ドイツ銀行の動きと売収劇

 これに対して、ドイツ最大の銀行であるドイツ銀行が、ウニクレディトによるコメルツ銀行の株取得を難しくするように動いているとも報道されています。
 ウニクレディトがコメルツ銀行を買収すると、ウニクレディト傘下のドイツの銀行部門がドイツで最大になると言われています。ドイツ銀行からすると、強力なライバルになる可能性があるため、これを阻止したいと考えています。ドイツ政府が保有するコメルツ銀行の株をドイツ銀行が買うという案も浮上しているとのことです。このドイツの銀行を巡る売収劇はまだどうなるか分かりませんが、動きがあり次第お伝えしていこうと思います。

ZEW景気期待指数の発表

 9月17日にはドイツのZEW景気期待指数が発表されました。これは欧州経済研究センターが民間のアナリストや機関投資家350人に今後6ヶ月の景気の見通しについてヒアリングしたものを数値化したものです。ドイツ経済において非常に注目度の高い経済指標です。
 同じく注目度の高い経済指標としてIFO景気期待指数もあります。こちらは企業など7,000社にヒアリングを行って数値化したものです。

景気期待指数の結果と影響

 ZEW景気期待指数は数値がプラスだと景気が改善していることを示し、マイナスだと景気が悪化していることを示します。今回は予想が17.0だったのに対し、結果は3.6となりました。昨年の後半からプラス圏に浮上し、6月には47.5まで上昇しましたが、8月には19.2に低下し、今回は3.6まで低下しています。
 今年の前半までドイツは景気の持ち直しが意識されていましたが、再び失速感が鮮明になってきています。今後、どれくらい景気が悪化するのか、来年の選挙にも影響を与えることになるでしょう。

ドイツ語の発音について

 最後に、少し緩い話題ですが、先日ドイツの政治で急激に支持を集めているザーラ・ワーゲンネヒト氏について動画で解説しました。その動画の中で、私の発音が悪いという指摘がありましたが、ドイツ語の発音だけは本当に勘弁してほしいと思っています。英語でもLやTHの発音がうまくできず、子供からも「お父さん、何言ってるか分からない」と言われることがあります。ドイツ語の発音が悪いと言われても、正直無理です。そこはご容赦ください。
 今後もドイツの情報をお届けしていこうと思っています。よろしくお願いいたします。


ご参考


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