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インドでの金(GOLD)関税引き下げの影響


 金価格はドル建てで上昇を続けています。世界が混沌としている中で、安全資産としての金への投資に注目している方も多いでしょう。
 7月後半から8月にかけての金価格の上昇には、インドの金への関税引き下げが大きく影響したと見られています。この関税引き下げに関しては、今後も影響が出てくる可能性があるため、その背景を知っておくことは重要です。

出所)「金プラチナ相場情報Let's GOLD」(2024/8/31)

金価格の変動要因

 金の価格が変動する要因はさまざまです。金は安全資産としての位置付けがあるため、景気の悪化が心配される状況になると価格が上昇する傾向があります。また、金はドルで取引されるため、主要な通貨の価格が下落する、つまり金融緩和が行われる環境になると、相対的に価格が上昇する性質もあります。

グローバルサウス諸国の影響

 グローバルサウスと呼ばれる国々、特に中国が外貨準備において金の保有を増やしていることも影響しています。

中国の場合、資本移動が制限されている国ですので、中国経済が危機的状況になり、海外に資産を移したいという状況になっても、簡単に海外に資産を移すことはできません。そうした中で、金を買うというのが資産を保全する一つの方法になっていて、中国においては民間の金保有も増えていると言われています。

金とプラチナの価格差拡大とその背景

 他にも、金を裏付けとした新しい通貨を作ろうという話もあり、ドル離れが進む中で、こうした地政学的な問題も金価格の上昇に一定の影響を与えています。

金本位制の歴史とその影響
 米ドルから独立して新たな通貨を作るとすると、金(GOLD)を後ろ盾にするしか方法がないと言ったところでしょう。

BRICSの新通貨構想について

インドの金(GOLD)需要

 インドでは、一般の国民が投資目的や宝飾品として金を購入するニーズが非常に多く、これも金価格が上昇する要因と見られています。インドは2024年7月23日に金の関税を15%から6%に引き下げました。この関税引き下げが7月後半から8月にかけての金価格上昇に大きく影響したと見られています。

インドの関税引き下げの背景

 なぜインドは金の関税を引き下げたのでしょうか。これは世界の金融環境と密接な関係があります。
 アメリカが利上げを行うと、世界の新興国ではドル高が進み、資金が流出し、金融環境が引き締まって経済的に厳しくなります。アメリカが自国内のインフレ抑制のために利上げを行うと、ドルが強くなり、新興国から投資が引き上げられてアメリカに投資が集中します。

新興国の金融環境と金の取得

 新興国ではドル高局面で、資金の流出懸念が生じます。この時に厄介なのが、国民による金の取得です。アメリカが利上げをしている局面で、国民が金を購入すると、金はドルで買うことになるため、さらに資金が流出してしまいます。
 
そこでインドはまず2022年にアメリカが急ピッチな利上げを開始し、ドル高が加速する中で、金の関税を引き上げました。関税を引き上げることで、金の購入意欲を抑え、資金の流出を緩和しようとしたのです。

国際的な批判と密輸問題

 ただし、この関税引き上げには国際的な批判もありました。関税を引き上げたことで、インドの人々が金を密輸することが増えるという指摘です。インド人による金の密輸は昔からあり、最近始まった話ではありません。
 インドが密輸している金はスーダンから来ていると言われています。スーダンでは2023年から内戦状態にあり、RSFという武装勢力が金鉱山を支配しています。このRSFの後ろ盾になっているのがUAEだと言われています。スーダンから金がUAEに渡り、それがインドに密輸されるというルートがあるとされています。

関税引き下げの決定とその背景

 インドの金への関税引き上げは批判もありましたが、2024年7月23日にインド政府はこれを引き下げることを決定しました。これまで15%だった関税を6%まで引き下げました。
 今回の引き下げの背景には、アメリカがいよいよ利下げを開始する可能性が高まり、ドルが安くなってきたことがあります。国民が金をたくさん買って資金が流出しても耐えられる状況になってきたと判断したものと思われます。

国内のニーズと経済効果

 国内では以前から金への関税を引き下げてほしいというニーズが根強くありました。6月の総選挙でモディ政権は苦戦し、支持率を回復したいという狙いもあった可能性があります。関税が引き下げられれば、インド国内で取引される金の価格は下がり、需要が増加し、国内経済が勢いづくことが期待されます。
 このように、インドでは金融環境の状況などから金への関税を変動させており、それが金価格に一定の影響を与えています。これは中国においても同様で、過去に資金流出が懸念されるタイミングで、一般市民による金の購入に制限を導入したこともあります。インドと中国という二大需要国の需要抑制策も金価格の変動に大きな影響を与えています。

機関投資家の動向

 機関投資家はゴールドへの投資にあまり積極的ではない、市場に大きな影響を与えるような大口の機関投資家はゴールドに投資するのは難しいという現実があります。ただ、ヘッジファンドのような小回りの利く投資家の中には、金の現物や先物、ETFに投資している機関投資家も一定数います。

現物市場の需要と規制の動向

 私の知り合いでそうした機関投資家で運用を行っている人がいます。現物市場ではやはりインドと中国の需要が大きく、こうした国の人々の需要や規制関係の動向を注視しながらトレードを行っているとのことでした。
 金に注目している方は、このあたりも注目していくと良いかもしれません。


ご参考

インド総選挙結果とインド経済の解説【インドのGDP成長率】

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