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データに基づく米ドルの価値の現状の整理


 トランプ氏が大統領選挙で勝利したことで、アメリカの金利が上昇したことを解説しました。その中で、「米ドルが強くなっている」という説明をしましたが、「どうしてそのような嘘をつくのか」、「ドルが強くなっているわけがない」とのコメントをいただきました。

 インフルエンサーの中にも「ドルは弱くなっている」と説明する方がいます。例えば、「ドル円で見ると円が弱すぎるためにドルが上がっているように見えるだけで、実際には他の通貨に対してドルは弱くなっている」といった説明をする方もいます。
 しかし、実際のドルの動きをきちんと解説している情報は意外と少ないのが現状です。そこで今回の記事では、米ドルの現在の状況について、実際のデータを用いて解説します。

米ドルの価値

 まず、米ドルの価値についてです。ドル円では近年ずっとドル高が続いています。しかし、円安の影響を考えると「では他の通貨に対してドルはどうなのか」という疑問も浮かぶでしょう。その答えを示す指標として、ドルインデックスがあります。

ドルインデックスとは

 ドルインデックスとは、主要通貨に対するドルの動きを総合的に表した指標です。この指数は、各通貨の取引量に応じた加重平均で計算されており、ドルが主要通貨に対してどのように動いているかを把握することができます。このドルインデックスを見ることで、ドルの総合的な強弱を評価することが可能です。

ドルインデックスの推移

 2024年11月22日時点でのドルインデックスの水準は、年初来で最高値を記録しています。ドルインデックスは無料で確認可能です。例えばブルームバーグのホームページなどで閲覧できます。興味のある方は是非ご覧ください。

データ出所
ブルームバーグHP(https://www.bloomberg.co.jp/quote/DXY:CUR)

 過去10年でドルインデックスの水準を振り返ると、現在よりも高い水準だったのは2022年7月から11月のわずか4カ月間だけです。この状況を踏まえると、「ドルは弱い」と判断するのは難しいのではないでしょうか。
 ただし、通貨の潜在的な地位は価格だけでは評価できません。価格以外の側面から、米ドルの現在の地位を確認するための指標もいくつか見ていきたいと思います。

外国為替市場での取引シェア

 外国為替市場における米ドルの取引シェアについてです。これは、実際に貿易や投資などで動いたお金の中で、どの通貨がどのくらいの割合を占めていたかを示します。このデータは国際決済銀行(BIS)が発表しているものを基に確認できます。

データ出所
公益財団法人国際通貨研究所、国際通貨研レポート(2022.10.31)
元資料:国際決済銀行(BIS)、2022 年外国為替及びデリバティブに関する中央銀行サーベイ

 このデータによれば、米ドルのシェアは2007年には42.8%でしたが、その後も緩やかに増加を続け、2022年には44.2%となっています。この数値から判断すると、外国為替市場での米ドルのプレゼンスが低下しているということは確認できません。

外貨準備における米ドルの割合

 次に、各国の外貨準備において米ドルが占める割合について見ていきます。外貨準備とは、各国政府が為替介入の際に使用するために保有している外貨のことです。貿易や投資の取引量が多い通貨を持っていなければ意味がないため、この割合を確認することで、各国がその通貨をどれほど重要視しているかがわかります。

データ出所
豊トラスティ証券株式会社HP
元資料:国際通貨基金(IMF)

 2023年末時点で、世界の外貨準備に占める米ドルの割合は58.4%となっています。この割合は2017年には65%以上ありましたが、その後緩やかに低下を続け、2021年には60%を下回りました。そして現在でも緩やかな低下傾向が続いています。

 外貨準備における米ドルの割合が低下している一方で、増加しているのは人民元と金(Gold)です。ここ10年程度で特に金(Gold)の保有が増えています。
 この背景には、中国が米国債を売却し、金(Gold)を購入していることがあげられます。2023年末時点で、中国は3兆4,506億ドルという世界最多の外貨準備を保有しており、2位の日本(1兆2,950億ドル)を大きく引き離しています。このように、中国がドルの保有を減らす動きが、世界全体で見た数値に大きな影響を与えていると考えられます。

グローバルサウス諸国の影響
 グローバルサウスと呼ばれる国々、特に中国が外貨準備において金の保有を増やしていることも影響しています。

インドでの金(GOLD)関税引き下げの影響

原油取引の決済通貨

 世界の原油取引における通貨の割合も注目すべき指標の一つです。
 アメリカの大手銀行JPモルガン・チェースの推計では、2023年の世界の原油取引のうち20%が米ドル以外の通貨で決済されているとされています。米ドル以外の決済が増加していることを示すデータと言えます。

ペトロダラー協定の影響についての結論
 ペトロダラー協定がドルを支えていたわけではなく、そんなものがなくなっても石油輸出国はドルを買わなければならないということがお分かりいただけたと思います。そう簡単に米ドルが基軸通貨であるという現実は変わらないだろうということです。

石油取引の資金の流れと米ドルの重要性

総括

 これまでのデータを総合すると、一部の取引(原油など)において米ドルのシェアが下がり、外貨準備における米ドルの割合も減少傾向にあることが分かります。しかし、外国為替市場でのドルの取引は増加しており、米ドル全体の地位に与える影響は限定的です。
 さらに、中国が米ドルに連動する為替相場制を採用しているため、極端にドルの保有を減らすことは現実的に難しいと考えられています。これらを踏まえると、現在のデータから「米ドルが著しく弱くなる兆候」は見受けられないと言えるでしょう。


ご参考

ドル依存は続く
 人民元での原油取引が始まることや、BRICS諸国による新通貨の議論など、脱ドル化の動きは注目されています。しかし、これらがドル覇権を脅かすためには、金融市場の根本的な構造改革が必要です。

中国のサウジアラビアでのドル建て国債発行理由

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