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8月2日発表の米雇用統計の解説と今後の見通し


 2024年8月2日に発表された7月の米雇用統計の結果は予想よりも悪いものでした。これを受けて、マーケットでは金利が急低下し、ドルも急落しました。ドル円は1ドル146円台半ばまで下落し、ニューヨークの株式市場も急落しました。日経平均の先物はアメリカ時間に35,000円を割り込んで金曜日の取引を終えています。

ドル円急落の予測と結果

 ドル円などの市場の動向を見ていくうえで、今回の米雇用統計は非常に重要であると述べてきました。日銀が利上げを行い、雇用統計で失業率がさらに上がった場合、ドル円は急落する可能性があると予測していましたが、まさにそのシナリオが実現したと言えます。

日銀が利上げを実施し、FRBが利下げを開始する時期が近づいている、そのペース次第では大きく円高に触れる可能性もある重要な局面に来ているのは間違いないでしょう。

日銀の利上げと国債買入減額計画の詳細と評価

株式市場の反応と投資家の心理

 現在、株を保有している人はどこまで下がるのかとパニック状態になっているかもしれませんし、これから株を買いたいと思っている人々はもっと下がるのを待っているかもしれません。
 アメリカの景気が一段と悪化しているのは間違いありません。また、これまでのように円安が進む環境ではなくなったと考えています。円安相場は一旦終わったと言えるでしょう。

景気後退の見方と冷静な判断の必要性

 しかし、世の中では景気後退やアメリカ経済の終焉といった見方が広がっていますが、どの程度悪化するのかを冷静に見ていく必要があります。今後のアメリカ経済とマーケットの見方について解説したいと思います。

雇用統計の詳細とその影響

 まず、金曜日のマーケットを簡単に振り返ります。雇用統計の結果は、非農業部門雇用者数の伸びが予想の17万5千人の増加に対して、結果は11万4千人の増加でした。失業率は4.3%で、6月の4.1%から大きく上昇しました。これは2021年10月以来の高水準です。失業率の予想も4.1%でしたので、予想よりもかなり悪かったと言えます。1年前の2023年7月の失業率は3.5%でしたので、1年で0.8%も上昇したことになります。これはアメリカ経済が非常に悪化していることを示す結果です。

債券市場の反応と金利の動向

 この結果を受けて、債券市場では金利が急低下しました。アメリカの10年国債の利回りは雇用統計発表前まで3.9%台半ばで推移していましたが、発表後は3.8%を割り込み、3.79%で取引を終えました。短期ゾーンの国債の利回りはより大きく低下し、2年国債の利回りは0.27%低下して3.88%まで低下しました。債券市場でこれだけ金利が低下した要因は、景気悪化を受けてFRBの利下げ期待が急速に高まったためです。

FRBの利下げ期待

 前日の8月1日時点で金利先物市場が織り込んでいたFRBの利下げは、
 ・9月が0.25%、
 ・11月も0.25%、
 ・12月も0.25%でした。1ヶ月前は年内2回の利下げしか織り込まれていませんでしたが、7月に入ってからの弱い経済指標を受けて、雇用統計が発表される前の時点で年内利下げ3回が織り込まれていました。これが雇用統計発表後には、
 ・9月は0.5%の利下げが9割程度織り込まれ、
 ・11月も0.5%の利下げが8割程度、
 ・12月は0.25%の利下げが織り込まれています。合計で1%から1.25%の利下げが行われることを金融市場は織り込んでいます。
 このように急速な利下げが期待されている中で、現在5.5%となっているアメリカの政策金利は年末には4%台、来年の早い段階で3%台になるとマーケットは予測しています。

今後の見通し

 今後のマーケットを見ていく上で重要なポイントについて解説します。まず、失業率が上がってきたアメリカが景気後退だと言われ、2007年以降の状況と比較されていますが、今は金融危機が心配されている状況ではないということです。
 アメリカの商業用不動産ローンの問題が金融システムにとってリスクであることは確かですが、リーマンショック後の金融規制の強化もあり、大手銀行が破綻するような状況にはありません。

 景気後退というのは経済成長率がマイナスになることです。一般的にはGDPの成長率が2半期連続でマイナスになると景気後退ということになります。一方、金融危機というのは金融システムの不安や金融機関が連鎖的に破綻する懸念が生じたり、金融市場が機能不全に陥ったりして経済危機を招くことです。
 金融危機が実際に起こると、景気後退はほぼ免れないですが、景気後退は必ずしも金融危機を伴うものではありません。

アメリカの住宅ローン債務不履行急増問題

株式市場の現状とAIバブルの影響

 株式市場については、最近のAIバブルが影響を与えている可能性があります。株式市場が大丈夫だとは言えませんが、アメリカの株式市場はアメリカ経済の景気悪化や失業率と直接的にリンクしなくなってきています。これまでも国内の失業率が上がっても金利が低く抑えられていれば、テクノロジー企業などはむしろプラスとなり株価が上がることもありました。テクノロジー企業が牽引するアメリカの株式市場において、あまり悲観的になりすぎると何かを見逃してしまう可能性もあります。

GDPと個人消費の動向

 今回の雇用統計を受けても、アメリカ経済は確かに悪化していますが、景気後退には至っていないという見方もあります。先日発表された第2四半期のGDPは予想よりも強く、前期比+2.8%で予想の+2.0%を大きく上回りました。個人消費も+2.3%で予想の+2.0%を上回っています。これが一気にマイナスになることはないだろうという予想もあります。
 FRBの金融政策を決める次のFOMC会合までまだ50日程度あります。この間に消費などがそこまで悪くないという結果が出れば、やや持ち直す可能性もあります。景気が悪化しているのは間違いありませんが、景気後退を断言するには早すぎるかもしれません。利下げの織り込みは過剰かもしれないという気もしています。

経済の悪化と金融危機の懸念

 アメリカ経済は着実に悪化しており、ドル円はこれまでのように円安が進む状況ではなくなっています。ただ、今起こっているのはアメリカの景気悪化であり、金融危機が心配されているわけではありません。景気自体もどこまで悪化するのか、場合によってはそこまで悪化しない可能性もあります。


ご参考①

ご参考②(有料記事)

米雇用統計とは何なのか、数字が良ければどうなるのか、そもそもなぜ世界中で注目されるのか、そこからの解説です。最後の段落「米雇用統計を見るうえでの注意点」だけややマニアックですが、経済指標やデータを見るうえで是非ご覧いただきたい内容です。

今さら聞けない米雇用統計の基礎

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